睡魔



※雲雀が猫化してます。
※短め。







「ねえ、アラウディ。お腹空いた」

「…、朝からうるさい猫だね。折角の休みなんだから少しは寝かせて…」


寝惚け眼で見詰めるアクアの瞳がとろんと一匹の黒猫に向けられ、滑舌の悪い言葉を述べたら再び枕へぽすんと頭が落ちた。
薄い髪色が散った様を不機嫌そうな視線で見詰めた雲雀は、布団に埋もれる主人の身体を強く揺さぶる。



「ねえ起きてよ。お腹空いたって言ってるだろ」

「…ああもう、うるさいな……」

「起きてってば」


くるりと背を向けられてもめげない雲雀。
何度揺さぶられても主人だって眠気には勝てない。
頑固な二人が遣り繰りしている様はなんとも和む朝の一面。
けれど雲雀の空腹は限界に近いのか、主人の眠るベッドへ乗り掛かるとそのままアラウディの身体へ跨がった。

何をするかと思いきや、夢の世界へ飛び立つ主人の首筋へ小さくも鋭い牙を突き立てる。
じくりと痛む刺激に眉を寄せて目を覚ますと、その部位に触れた手には赤い血液が。
またか。



「いつも言ってるけど、この起こし方やめてくれる?不愉快なんだけど……」

「あなたが早く起きないから悪い」

「……はあ、わかったよ。今作るからいい子で待ってて」


致し方無く起き上がるアラウディに、目の前の雲雀は微かに喜びを示した。
可愛いから良しとするか。
そんな自分にも呆れてしまう。

自分の上へ乗り掛かる雲雀を抱き上げると、ベッドから足を下ろし抱えていた相手もストンと下ろしてやった。
そして寝間着から簡単な服装に着替え、取り敢えず洗面所へと向かう。

アラウディの後に着いてくる愛しい動物は早く早くと急かし、顔を洗っている最中も煩いので悪戯程度に水を軽く掛けてやったら嫌がって飛び退いた。
小さく笑ったら口元を曲げて眉を寄せる。
そうしてキッチンへ向かって高い棚に厳重に閉まってあるキャットフードを取り出すと、足元で嬉しそうに尻尾をはためかす雲雀。
悪戯好きのこの猫は、お腹を空かせると自分で捌くってご飯を食べてしまうから、こうして手の届かない棚の奥へとわざと閉まってあるのだ。
全く世話の焼ける…。

紫色の容器へザラザラとご飯をよそってやって、取り出した餌箱を再び元に戻してからリビングにあるテーブルへ置いた。
すると勢い良く椅子に座った雲雀が、戴きますと言ってがつがつと食べ始める。



「恭弥、喉に詰まらせないでね」


言葉が聞こえているのかは知らないが、片手に持つスプーンが容器と雲雀の口を早いペースで往復しているものだから少々心配になる。

そっと牛乳の入ったコップを置いてから、アラウディは再び部屋に向かった。
何故って眠いから。
折角の休みなのだからやはり満足のいくまで寝たいもので、普段からこんな暮らしをしているわけではないのだけれど、たまにはいいだろう。
何時もなら中々仕事で構ってやれない雲雀と遊んでやるのだが、今回は自分から誘う気にもならない。
とにかく、眠い。

部屋に着くや否や、そのままボフンとベッドに沈み間もなく襲いくる睡魔に身を委ねた。





........end

ボツになったお話。
途中で力尽きた…





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