僕と僕の責任転嫁
 


おじさんはね、と話す声は少しかすれていて、とろとろと睡魔を誘ってくるような、そんな心地良さがあった。
日が傾きオレンジ色の光が窓から差し込み、部屋はあたたかい色に染められる。
シュンシュンとストーブの上に置いたヤカンが鳴いていた。
ふわふわのクッションをたくさん置いたカウチに沈み込めば、ジリェーザさんの声はもはや子守唄にしかならない。
うつらうつらと舟を漕ぐ。
ゆるゆると過ぎる時間の流れを感じた。


「アーセル、聞いてるのかい」
「あえっ、あっ、うん、聞いてる」
「口の端、よだれ垂れてるよ」

ついっと口を指差され、咄嗟に口元を袖口で隠すと、してやったという顔で、ふふ、とジリェーザさんが笑った。
その笑みで、口の端が濡れていないことに気付く。

「嘘じゃないですか……」
「君が話を聞いていないから、ついね」

ジリェーザさんがカウチに座り、きしりと軋んだ。
背を向けて座るジリェーザさんにのしかかると、重いよ、とくすくす笑いながらも拒むことはしなかった。
ジリェーザさんの薄い耳朶にちゅっと唇を寄せると、耳朶が赤く熱を持ったのが分かった。

「やめなさい」

振り向いて嗜めるジリェーザさんの顔は日の色に照らされたせいか赤く染まっている。
そのまま、ちゅ、と頬に唇を寄せようとしたが、ジリェーザさんの手によって阻まれる。

「やめなさい、こんなおじさんを相手にしても楽しくないでしょう」
「どうしてそんなこと言うんですか。楽しいとか楽しくないとかそんなんじゃなくて……」

そんなことをいつも言われては項垂れてしまう。
好きと伝えてもありがとうとしか返ってこない。
相手にされていないのかと思えば耳朶を赤く染めている。
のしかかるようにして抱き締めると拒みはしないのに、それ以上を求めることは許されない。

「ジリェーザさんのこと、本当に好きなんです。楽しいとか、そんなんだけじゃなくて……」
「……アーセルはどうして、こんなおじさんがいいんだい」

答えられない。
どうしてと問われれば、自分だってどうしてと思ってしまう。
分からないけどとにかく好きで仕方ない。
子供染みた、全部好き、なんて答えようとしてもジリェーザさんはそれを受け入れてはくれないだろう。

「アーセル、君はまだ若いじゃないか。若い人ならいっぱいいるだろう」
「ジリェーザさんじゃなきゃ、やです」
「おじさんとか年上が好きなのかい」
「おじさんじゃないです。ジリェーザさんが好きなんです」

ふむ、とジリェーザさんが顎をさすった。

「おじさん根暗だよ? 楽しくないよ? もっとかっこいい人もいるよ?」
「俺ホモじゃないです」
「言ってることとやってることがちくはぐだよ、アーセル」

くすりと笑いながら、ジリェーザさんが俺の頭を撫でた。

「おじさんが好きなの?」
「ジリェーザさんが好きなんです。男なら誰でもいいとか、そんなんじゃないです。ジリェーザさんじゃないと無理です。ジリェーザさんだから、好きなんです」


好きになったのがジリェーザさんだから、だから。
ぎゅっと抱き着いてジリェーザさんの首元に顔を埋めた。
ぽんぽんと頭を撫でられて、顔を上げるとジリェーザさんは笑っていた。

「困ったなぁ、この年でおじさん年下の彼氏ができちゃったな」
「え……それって」

ジリェーザさんの言葉の意味がうまく理解できない俺に、ジリェーザさんの唇が、ちゅ、と頬に触れた。
初めてのジリェーザさんからのそれに、顔だけじゃなく耳まで熱くなる。

「僕じゃないとダメなんて、それならおじさん責任とらなきゃね」

ふふ、と笑って今度は唇に触れた。
気がつけばジリェーザさんが俺に覆い被さるような体勢に、余計に顔が熱くなった。



前へ 次へ

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -