そよ風が吹けば葉と共に私の髪が揺れる。まるで私とこの木は全てを共有しているようだ。今いるのは丈夫そうな木の上。周りには誰もいない、否、私が人のいない場所を選んだのだ。
私も木や花に生まれたかった。そうしたら、この面倒くさい人間関係やら何やらに巻き込まれることもなく、ひっそり静かに暮らせただろうに。毎日毎日あいつに心臓をとられそうになることもなく、面倒をかけられることもなく、生きていけるだろうに。

「あ、名前だ」
「………またかよ」

私に声をかけてきたのは、同学年の次屋だった。私がため息をつくと同時にあいつは木を登り始めた。ここまできたら蹴り落としてやろうかとも考えたが、私の少ない良心がそれを止めた。

「何してんの?」

次屋は顔を思い切り近づけて聞いてくる。そのとき心臓がどきん、と音をたてて跳ねた。
この動きのことを同室の友に話したら「名前の初恋!?すごい、相手だれっ?」なんて聞かれたからそれ以降この話はしないようにしている。

「それはこっちのセリフだ。お前こそ何でこんなとこにいる」

理由は大体、というか確実だが一応尋ねてみた。

「図書室行こうとしたら二人が迷子になって、探してた」

私は二度目になるため息をつく。次屋とはよく出会う。というか毎日出会う。なぜか次屋は迷子になっていると必然的に私のいる場所にたどり着いてしまうらしい。意味が分からない。だからほぼ毎日、私が作の元にこいつを送りとどけている。作は幸運、私は不運だ。ちなみに私は保健委員会には所属していない。
私は木から飛び下りた。それに続いて次屋も下りてくる。「どこ行くの」なんて聞いてくるから一言「図書室」と答えてやった。

「なぁんだ。じゃあ名前も一緒に行こう」

そう笑いながら言ってきた。どきん、

「二人も探さないとな」
「左門はわからんが作はもう着いてるころだろう」

ほら、行くぞ。私が次屋を待たずに歩こうとすると(また迷子になっても知ったことか)キュッと私の手が掴まれた。
振り向くとそこにはまだ次屋がいて、私の手を握っていた。自分で顔が赤くなっていくのがわかる。どきん、どきん、何度も心臓が跳ねる。

「なっ………!」

言葉がでない。私は生まれてこのかた、親族以外の男と手など繋いだことがないのだ。

「こうしてないと、名前も迷子になるかもしれないじゃん」

次屋は私の手を引き、ぐんぐん歩き始めた。もちろん図書室は逆方向だ。
心臓がどきんどきんと大きく音をたてて跳ねるためうるさい。この音が手を通して次屋に伝わってないか心配になる。心臓のせいで周りの音が私の耳には入ってこなかった。

「次屋、おい次屋!」
「何?」
「図書室は逆方向だ!あと、手を離せ。そういうのは好きな者とすることだろうが!」

私の叫びを聞き、次屋は首を傾げてきょとんとする。そして、理解したような表情をし、口角をあげて言った。

「じゃあ、いいじゃん。俺名前のこと好きだもん」
「ばっ………馬鹿!!」






クイズの答えはCMの後で
私は大嫌いだ!!

「うそあまい」様提出

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