6
着いたのは、都内の某ホテル。
目の前に横付けして、ルフレの手を引いてエントランスに入る。鍵は出迎えた従業員に渡した。
手を引かれるまま、ルフレはホテルの中を突き進んだ。
黒崎蘭丸は勝手知ったるなんとやら。ズンズンと我が物顔で突き進む。
辿り着いたのは、どうやらホールだった。
ドアを開けて待つホテルマンに誘導されるまま、中に入る。
途端、瞬くフラッシュ。会場内はマスコミで溢れかえっていた。
「ランちゃん」
不安で足が竦む。
けれど、黒崎蘭丸はステージに上がり、ルフレも連れられる。
思わぬ二人の登場に、会場内が騒然とした。
しかし、黒崎蘭丸はまっすぐ見据える。ルフレの不安げな視線と握る手の強さは気に留めていなかった。
マイクを受け取り、漸う口を開いた。
「本日は私のためにお集まりいただきましてありがとうございます。突然のことにも関わらず、沢山の方にお越しいただき恐悦至極でございます」
使い慣れない言葉。スラスラとカンペを読んでいるみたいに出てくる言葉。
まるで別人みたいだった。
「本日お越しいただきましたのは、私事でご報告があり、急遽このような形で会見を開かせていただきました」
何を言うのだろうか。
何も聞かされていないルフレは、不安しかなかった。
黒崎蘭丸は、握る手に力を入れた。
「私黒崎蘭丸は、こちらの女性と生涯を共にします」
しんと、静まり返る場内。物音一つ立たなかった。フラッシュの音一つしない。
誰もが、驚愕に動きを止めた。
その中、黒崎蘭丸は堂々と続ける。
「つきましては、ご来場の皆様、関係者やファンの皆様方には見守っていただけますようお願い申し上げます」
頭を下げる彼に、誰もが言葉を失った。
まさか、と誰しもが思った。
だが、どこにでも空気を読まない輩はいる。特に今日はその集まりだ。すみません、と記者の方から声が上がった。
「そちらの女性は同じ事務所であり、黒崎さんとは同じユニットを組んだカミュさんと、後輩の神宮寺さんのお子さんですよね?」
「はい」
「失礼ですが、そちらの女性は一ノ瀬さんとの密会をつい先日撮られたと思いますが」
ツキリ。ルフレの胸が痛んだ。
容赦ない質問に、ルフレは俯く。黒崎蘭丸はじっとその様子を見つめた。
「そのことについては訂正させてください。彼女と一ノ瀬は親子のようなものです。小さい頃から良き相談相手として仲良くしておりました。昨日今日ではなく、産まれた時からです」
「ということは、あのスクープは誤報ということですか?」
「はい」
黒崎蘭丸は、物怖じせず頷いた。普通こういった場面では断言しない。言質を取られないためだ。
だが、ハッキリと頷いた。ルフレは心が温かくなった。
「現在、事務所と彼女の両親が訴訟しております。彼女は一般人であり、知り合いと雖も小さい頃から親のように慕った一ノ瀬と会ったというだけで密会と大々的に報じた関係者。そして、誤報に踊らされ、彼女に厳罰を与えた学校側に提訴する予定です」
ルフレは目を瞠る。
訴訟しようとしていることは、口にしないのが普通。情報を漏らさないためだ。
勝訴する確信があるのだろうか。
「皆様には彼女が一般人であることのご理解を重ねてお願い申し上げます」
つまり、一般人なんだから手出してくんなよ。ということである。
会見というより宣戦布告だ。もししたらどうなるか分かってんだろうなと言っているようなものだ。先に訴訟準備に、事務所もあげて奔走していることをあげたことも脅しの材料となっている。
「最後になりましたが、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。静かに見守っていただければ幸いです」
言いたいことだけを淡々と告げて、マイクを渡した。
そして、まだ質問のある来場者達を置いて、戸惑うルフレの手を引き黒崎蘭丸は会場を後にした。
     
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