4
「ルフレ!」
なんとか一日耐えて、帰宅すると、一ノ瀬トキヤが来ていた。
「ルフレ、すみません。私のせいでこんなことになってしまって」
帰宅した途端、ルフレに駆け寄り案じてくれた。
秀麗な顔を悲しげに歪め、親身になってくれる。
だが、
「っ、」
ルフレは歯噛みした。
一ノ瀬トキヤの胸板を突き飛ばす。
居合わせた両親と小さい弟達が息を飲む。
十年下の弟達は知らない。昔のルフレを。いつも優しい姉で、お淑やかで、物静かで、よく出来た自慢の姉。
天真爛漫で、明るくて可愛らしいルフレを知らない。
そして、腹の中に黒々とした化け物を飼っていることも。
「責めればいいでしょっ?私が女子校に通ってるせいだって!」
普段は全く声を荒げないルフレが、大音声で悲鳴のような叫びを突き付けた。
一ノ瀬トキヤが目を瞠った。
「私は責めたわ!何度もなんども何度も!パパとママが親じゃなかったらって、トキヤさんが普通の人だったらって。何度も責めたわ!」
規律厳しい超お嬢様高校というだけでなく、ルフレの両親が人気アイドルであるからということもある。相手が一ノ瀬トキヤであったことにも拍車をかけた。
一ノ瀬トキヤはHAYATOであった頃は兎も角、今はストイックな性格で人気を博している。歌や演技、アイドルであることに人一倍熱心だから男性ファンもつく。
その一ノ瀬トキヤのスクープが、よもやカミュと神宮寺レンの娘だったのだ。それも超お嬢様高校に通う。
カミュは執事のような慇懃な性格と、人を見下す絶対的な性格、そして透き通るような氷のような顔立ちで売っている。対して、神宮寺レンはプレイボーイだった。甘いマスクと女性の扱い。そんな二人の娘であったことにも今回のスクープは一役買った。
「パパとママがの娘じゃなければって思ったわ。そんな自分も嫌になる」
「ルフレ」
「なんでよ!なんでなのよ!」
ルフレの叫びが劈いた。心を。
両親は青ざめている。父はぐっと堪えているが、母は今にも倒れそうだ。小さな双子の弟達は泣きそうに顔を歪めている。
それら全てが怒りを煽った。
「なんでよぉ!」
一ノ瀬トキヤを突き飛ばした。尻から倒れこんだ彼の上に跨る。
「なんでなのよぉ!ねぇ、どうして・・・」
どんっ。どんっ。胸を叩く。力いっぱい。
段々力が弱くなっていく。
ルフレは一ノ瀬トキヤの胸板に顔を埋めた。
「どうして・・・、どうしてっ、トキヤさんなのよぉ!」
「・・・ルフレ」
ルフレは唇が切れるくらい噛んだ。
一ノ瀬トキヤが息を飲みながら、頭に手を置く。
「これじゃあランちゃんに嫌われちゃうぅううう!」
ずっと好きだったのに。大好きで、大好きで。黒崎蘭丸のためならば性格も変えられた。厳しい女学校にだって通える。
それなのに、別の男とスクープを撮られるなんて。
「あぁあああっ。どうしよぉ、ランちゃんに嫌われたら、どうしよぉおおっ」
ルフレはわんわん泣いた。
淑やかで、一切声を荒げないルフレが泣き叫ぶ姿に家族は言葉を失った。
一ノ瀬トキヤが優しく頭を撫でる手にも苛立ちしか感じられなくて、ルフレはもっと泣いた。
     
return
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -