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「ねぇ・・・」
「ほら、あの子よ」
「嫌だわ。いるのよね、毎年必ずああいう子が」
「しっかりしたお家って聞いたけど・・・」
「やっぱり母方の血のせいじゃないかしら?ほら、あそこって・・・」
ひそひそと囁き、まとわりつく視線。
拳を握ることもできなくて、爪で肉を抉った。
唇を噛む。血が出てきてやめた。
何も知らないくせに。
言ってやりたかったけれど、口を固く閉ざす。本当なんて知らない方がいい。










それは、突然だった。
一ノ瀬トキヤとお茶をしていたところを週刊誌に撮られたのだ。
それだけではない。まるで恋人同士の逢引のように書かれ、ありもしないでっちあげで嘘八百を並べられた。
個人情報の保護なんてない。ルフレがカミュと神宮寺レンの娘であること、兄弟が多いことなどを面白おかしく挙げ連ねられ、一ノ瀬トキヤは幼子に手を出したロリコンだなんて書かれていた。
「何これ・・・」
朝刊の一面を広げ、ルフレは愕然とした。
一ノ瀬トキヤと恋愛関係はない。ルフレのもう一人のお母さんというかんじで、そこに別な感情は全くなかった。
「るーちゃん」
「ルフレ」
三つ子の弟妹が珍しくルフレを気遣う。
しかし、今は構ってられやしなかった。
「なんなのよ、これ!」
悲鳴じみた非難があがる。
「なんで、よりにもよってトキヤさんなのよ!恋人だなんて冗談じゃないわ!バカにしてる」
時には兄のように、また時には母のように。ルフレを案じ見守ってくれた人。関係なんてずっと前からあるのに、ルフレが女子校に通っているのをいいことに面白おかしくこれ見よがしに書かれていた。恋人のように親密さを漂わせていた、だなんて嘘もいいところ。あの時のルフレは恋人ではなくワガママな娘全開だったはずだ。
女子校なんて行かなければ。行きたかったはずの学校なのに後悔しかない。
「パパ、なんとかなんねぇの?」
「無理だろうな」
父は実家と事務所から抗議と裁判の準備をしていたが、一度ついたイメージは拭えない。金を払って、やっぱりそうなんだろうと思わせて今後の飯のネタにされるのがオチだ。何れ第二第三のスクープが出てくる。
「ハッ、トキヤさんと?何これギャグ?」
クレルは険を強めて吐き捨てた。週刊誌を怒り任せに叩きつけた。
「ママの家は?」
「バロンと同じだと思う」
神宮寺レンも実家が総力をあげて、週刊誌を潰しにかかっていた。叔父誠一郎は今回の記事に激怒しており、次々と株主が手を引いているらしい。
しかし、そんなことはなんの効力も持たないことは明白だった。
それすらも、あのカミュと神宮寺レンの娘であるルフレと一ノ瀬トキヤのスクープネタにされてしまう。
「なんなのよ・・・」
ルフレは歯軋りした。
やっとだ。やっとお嬢様高校に通ってルフレが変わったのも周りに認識され始めて、黒崎蘭丸に振り向いてもらおうと躍起になってきたのにこれでパアだ。他人とのスクープだなんて、しかもよりにもよって後輩と写っているものだ。あの黒崎蘭丸がそれを許すとは思えない。
「も、やだ・・・」
弱音が吐き出る。頬を一筋の雫が流れ落ちた。
きっと呆れられる。もう望みはない。
立派なレディになって、黒崎蘭丸に振り向いて欲しかっただけなのに。
「ルフレ」
母の案じる声にも、嫌悪感を覚えた。終わりを告げるようで。
「もうダメだ・・・ランちゃんに見捨てられちゃうよぉ」
「ルフレ」
そっと父が抱き締めた。
何も言わない。ただ強い男の胸で、ルフレは涙を流した。今だけは安心する。
ルフレは、現実から目を背けるようにそっと目を閉じた。




学校には、親のような人だと説明をした。恋愛関係は一切なく、目撃者や二人をよく知る人達からも証言をしてもらった。
しかし、異性と外を出歩くことによく思われていなかった。それだけでなく、伝統ある学校が週刊誌の格好の餌食にされたことが我慢ならなかったらしく、ルフレは一週間の停学処分を受けた。
今現在、両親は出版社と学校を相手に裁判の準備をしている。
今回はあまりにも理不尽だった。
ルフレは昔からよく一ノ瀬トキヤと会っていたし、知る人からすれば今更といった感じだ。わざわざネタにしたのは、ルフレが女学校の生徒になったからである。
学校側にしてもそうだ。厳しい規律があることは分かるが、親のような人と話したところを撮られたのはルフレのせいではない。その上恋愛関係もなく、昔から付き合いのある知り合いだ。
過去にこのような事例はない。知り合いと話しているだけでは厳重注意だ。それに、常習犯ではなく一回目で停学は学校のメンツもあるだろうがやりすぎである。
ルフレは自宅謹慎となった。
一週間、一ノ瀬トキヤは来なかった。撮影でただでさえ忙しいところにマスコミの対応に追われているのである。
明けて、登校初日。
ルフレに突き刺さる視線は痛々しいものだった。
顔も名前も知らないような人達から受ける好奇と侮蔑。
「るーちゃん」
笙子が声をかけるが、正直今は返事を出来ない。
ルフレの心は荒れ狂っていた。
なんで。どうして。
黒崎蘭丸に振り向いて欲しかっただけだ。そのために素行から変え、常に完璧だった。
ただそれだけだ。それだけなのに、どうしてこんな目に遭わねばならない。どうしてこのような恥辱を耐えねばならない。
何故、自分が。
視線は一日中付きまとった。
先生達には呼び出しの際、ふしだらなと罵られた。
分からない。なんでここまでされて耐えるのか。
親までバカにされて、何故耐えなければならない。親のせいで何故バカにされなければならない。
     
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