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あの時決めたのだ。立派なレディになるのだと。
あなたを手に入れるために。
だから私は父のように落ち着いた性格でも、母親のように明るい性格なんかじゃない。心の中は見せられないくらい真っ黒。
だって好きだから。
あなたが好きだから、良い子のフリをすることなんてどうってことないわ。




女子校生活は思ったよりも厳しいものだった。宗教学校ではないが、淑女として相応しい行動を求められる。
元来活発なルフレは早くも根を上げそうだった。
授業が始まるまでは読書の時間。それが終わったら、淑女としての嗜みと学校の規律を読み上げる。
授業は居眠りも落書きも手紙交換も、中学の頃なら普通に罷り通っていたことが一切出来ない。そんなことをすれば素行が悪いとみなされ、最悪退学にもなる。
昼休みは五月蝿いと厳しい指導があり、淑女とはなんたるかという反省文を書かされる。今時珍しい正真正銘の女子校である。
また、知り合いだけでなく親戚など異性と懇意にすることもあまり勧められない。校外で会話しているところを見つかっただけで、理由を深く問い質される。兄弟でさえそうだ。
しかし、そんな今時有り得ない女子校でも入学者は毎年いる。倍率は十倍近くあり、母校というだけで社会にも有利に働く。将来結婚するときにも役立つ。
「はぁ・・・もうやだー」
ルフレは、突っ伏した。
都内の喫茶店。学校とは区が離れている。
ルフレは男と席を共にしていた。相手は母と同じスターリッシュの一ノ瀬トキヤである。
昔から一ノ瀬トキヤはルフレを殊の外面倒を見てくれて、第二のお母さんみたいなものだった。母が妊娠や出産で忙しい時も、仕事で忙しい父の代わりによく遊んでくれた。
ストイックな性格ではあるが、他人を慮る気質の一ノ瀬トキヤは昔からルフレの良き相談相手である。ルフレの素顔を知る唯一でもある。笙子でさえも知らない、母親似と言われたルフレも、その根っこの部分も全部知っている。
「自分で決めたんでしょう」
「そうだけど、こんなに厳しいって思わなかったんだもん」
実際、ルフレは甘く見ていた。お淑やかにしておけばいいと思っていたが、既に何度注意を受けたことか。
誰にでも大和撫子だとか美女だとか形容されるルフレが、である。それなりに猫をかぶる自信はあったがもうズタボロである。
「黒崎さんを振り向かせるんでしょう?」
「そうなんだけどぉ」
「なら、頑張るしかありません。あなたはレンに似て活発なんですから、そう安々と淑女のフリができるとは思えませんが」
最後に釘を刺され、ルフレはぐうと唸った。
動機としては不純だが、将来を考えるといいかもしれないと言ってくれたのは一ノ瀬トキヤである。母より一つ下の彼は、背中を押して選択させてくれた。
黒崎蘭丸の熱愛報道でわんわん泣き喚いた時も慰めてくれた。
母には言えないようなことも、一ノ瀬トキヤにならば言えてしまう。
「そう簡単に出来るなら苦労しません。だから、通うことを選んだのでしょう」
「うん・・・」
熱愛報道を聞き、ルフレは今のままではダメなんだと性格や所作一つに至るまで変えていった。花嫁修行と言って家事をしたり、勉学に励んだり、では黒崎蘭丸は振り向いてくれない。
ならば、変わるしかないと思ったのだ。
「はーぁ。トキヤさんをなんで好きにならなかったのかな」
「っ、ブッ!」
ルフレの呟きに、一ノ瀬トキヤは盛大に噎せた。
「ななな何を言ってるんですか!」
「えーだってぇ」
ルフレは唇を尖らせた。
一ノ瀬トキヤなら楽だった。なんでも話せるし、聞いてくれる。ルフレのことをよく知っているから偽らなくてもいい。お互いを知り尽くしているから楽だ。
一ノ瀬トキヤは、長い息をついた。
「まったく。黒崎さんを振り向かせて見せる!と言っていたあの気概はどうしたんですか」
熱愛報道が出て泣き尽くし、ルフレは宣言した。立派なレディになると。そうして黒崎蘭丸に好きになってもらうのだと。
しかし、前途多難だ。
最近は黒崎蘭丸にも会えない。春の特番などで忙しくしているらしい。実は今日一ノ瀬トキヤがここにいるのも奇跡のようなものなのだが。
「それに、私は嫌ですよ。もう一人レンがいるみたいじゃないですか」
しかも、尊敬する先輩の顔で。ゾッとする。
もし好きになられても振るだろう。範疇外だ。両想いでも長くは続かなかったはずだ。
自分達は二過ぎている。偽るところも、気持ちを表せないところも、遠回りばかりしてしまうところも。
「もう誰でもいいよ。レイちゃんでも藍ちゃんでも」
聖川真斗だったらレンがいの一番に別れさせたかもしれない。
「やけになってはいけません。やれることをやる。いいですね」
「う、ん・・・」
ルフレは頷き、撫でられた頭に触れる。
「すいませーん、激辛パスタ大盛りで!」
「まずはそのバカ舌とブラックホールをなおしなさい」
     
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