笑顔(あなた)
「レンは私の番です。義兄上の援助は結構。妻は私と暮らしますのであしからず」
翌日。神宮寺誠一郎を呼びつけ、カミュは開口一番に言ってのけた。
神宮寺家は連絡が入るまでレンを探し続けており、警察に捜索願を出そうとしていた。聖川財閥も、真斗の命で動いていた。
「ほう。私の妻、ね」
「ええ」
だが、神宮寺誠一郎は冷静だった。カミュの邸宅に来るまで、殺気立っていたというのに。
一方、カミュの隣に座る弟のレンは恥ずかしげに面を伏せていた。
神宮寺誠一郎は、弟を一瞥する。
どんな名医を頼っても、決して戻らなかった弟。このまま死んでしまうのかと悲嘆したというのに、番の横で頬を染めている。
「今更だとは思いませんか」
「ええ、今更気付きましたので」
「ほう?」
このクソガキが、と悪態づくのをすんでで堪えた。
散々弟を虐げておいて、今更自身の妻だとは笑える。
バカにしているのかと言ってやりたい。
だが、弟の目と、彼のまっすぐに見据える目に口を閉ざす。
「いいでしょう。但し、神宮寺家にはレンの部屋は残してあります。いつでも帰ってくるといい」
「ええ。里帰りの際にはお世話になるかと思います」
「・・・」
つまり、二度と手放すつもりはないが、里帰りくらいならさせてやってもいいということか。
このガキャア。青筋がいくつも浮かぶ。弟を泣かせておきながら調子にのりやがって。
「レン」
「は、はいっ」
「お前は、私の弟だ。それを忘れるな」
仮令、なんと言われようとも。神宮寺誠一郎は、弟が産まれたときに誓ったのだ。この子は自分が守ると。父が厭おうとも、母が守らずとも。
「だから、たまには帰って来い」
「・・・うん」
まあ、様子くらいは見てやってもいい。
神宮寺誠一郎は、カミュの邸宅を後にした。
「まったくあの兄バカめ」
早速、カミュは悪態をついた。
何がたまには帰って来いだ。よくも番の目の前でそんなことをぬかしてくれたものだ。
「ふふ。面白かったよ、バロン」
「・・・今日のデザートはとびきり甘くしてやるから覚悟していろ」
「うっ」
元に戻ってから徐々に食事を摂るようになったのだが、いかんせん甘いものはダメだ。元々甘いものはダメなのに、カミュがとびきりというのだから相当に違いない。
神宮寺レンは、とびきり甘いデザートを想像して顔を顰めた。
「せめてティラミスでお願いします」
「よし、とびきり甘いティラミスにしてやろう」
「やめて!」
辛いものが好きなのに、刺激が強いからとなかなか許可が出ない。なんとなく味気ない感じがして、寂しい。
それなのに、ティラミスですら甘くされたらもう絶望する。
「昼食を完食できたら考えてやろう」
「バロン!」
「ぐっ、考えてやるだけだ!」
「うん!」
番に抱き着きながら、神宮寺レンは微笑んだ。





それから、三ヶ月後。神宮寺レンのお腹に第一子が宿る。
「あー想い合ってない番には出来ないよ?子供」
医者のセリフに、カミュが目を逸らしたのは別の話。
     
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