運命(さだめ)
アルファは自分の運命と相手としか子供を残せない。
アルファとして生まれることは、生まれながらにして選ばれた人間という証でもあったが
、同時に子孫を残しにくいというマイナスの面があった。好きな人がいようといまいと、財閥や会社、名家の家のアルファは自分の運命に従わなければならない。
そこに、オメガの意志はない。
オレが、発情期を迎えたのは高校に入る前のこと。それからは抑制剤で抑えているが日増しに量が増えていく。いつまでもつかという感じだ。
兄によってアイドルを目指すことになった時、仕方ないとすら思った。母とオレを除いて家族はアルファ。つまりはそういうことだ。
オメガは生まれながらにして才能が開花しない。寧ろないと言った方が正しい。それでも母親の血筋のせいかアイドルには向いていたらしい。仲間と出会い、アイドルとして活躍の場を得ることができた。
そこには実家の後ろ盾とかもあったのだけれど。オレ自身の力も少なからずあったと思っている。
しかし、オレのアイドル生活は突如幕を閉じることになる。
やっとアイドルとして第一線を走っていこうと決意した時。それは前触れもなく訪れた。
全身に熱が走った。立っていることもままならない、全身を覆う熱に支配されて尻から倒れた。
おかしい。毎日抑制剤を飲んでいて、量もまだもう暫くは増やさなくていいはずだった。しかも発情期はまだ先のはず。
それなのに、突如快楽の渦に巻き込まれた。
身体はオレのいうこともききやしない。どころか、いや増すばかりで抱いても熱は解放されることはない。
「レン!大丈夫ですか、レン!」
「神宮寺、おい、しっかりしろ!」
仲間が何かを言っている。何を言っているのかまでは分からない。
熱い。熱い熱い熱い。
誰か、助けて。
抑制剤まで使って制御していたというのに、顔も知らないアルファに縋りつこうだなんて笑える。アルファだとかオメガだとか運命に従うなんてまっぴら。オレは好きな人と結ばれたい。
仮令、子供なんて出来なくても。
「この、におい・・・レン、あなたまさかオメガなんですかっ?」
「な・・・っ。まさか神宮寺が?ありえん。コイツはアルファではないのか?」
「いえ。ですが、このにおい覚えがあります」
仲間の声がどんどん遠くなる。
そろそろ熱が身体の支配圏を奪い取る頃だ。そうなったらいよいよおしまいだ。ともすれば、オレは長年共に走ってきた仲間に襲いかかりかねない。
熱に呻きながら、仲間に訴えた。
「に、げろ」
「レンっ?」
「バカを言うな。そんなこと出来るわけがないだろう!」
「い、から・・・っ」
早く。お前達に襲いかかるなんてことしたくないんだ。仲間にそんなことしたくない。だから頼む。逃げてくれ。
必死の訴え虚しく、オレの中のオメガが主導権を奪った。
「あ、ああ・・・」
やめて。やめてくれ。
「れ、レン!しっかりしなさい!」
やめてくれ!
「こら、神宮寺!やめろ!」
襲いかかったオレを羽交い締めにするが、オレの中のオメガは抵抗する。心の中では血の涙が流れているというのに。
「聖川さん、私が抑えます。早くレンの実家に連絡を!」
「すまない、頼む」
オメガは暴れ狂い、熱は放出出来ずに垂涎する。
我慢ならず、自らの手で達しようと伸ばしたがすんでで止められる。
「こら、レン!自分でしてはダメです!しっかり意識をもちなさい!」
止めないでくれ。
熱いんだ。熱くて熱くて。
止めてと願っていたはずなのに、いつのまにかオレは反対のことを願っていた。
「その必要はない」
その時、第三者の声にオレは脳髄から感じた。
陰茎に直接響く声音。
刹那、オレは達していた。
「え、れ、レンっ?」
「ソイツは俺が預かる」
「え、し、しかし・・・」
「自分の番の不始末を他人に拭われるような真似はせん」
「つが、えっ?」
コツ、コツ、と靴音が響く。
その音も聞こえていないのに、身体は徐々に熱くなっていた。身を捩り、熱を逃すことも出来ず喘ぐ。
「あ、あ、・・・あぁ」
「面倒なことをしてくれたものだな。貴様がが薬なぞ服用していたせいで、番を見つけるのが遅くなったではないか」
「ンあぁっ、あ・・・あ」
耳から侵入する熱がオレを犯す。まるで愛撫されているようだった。
そして、オレの手を引く。
「あぁああアッ!」
刹那、襲う刺激。触れられているわけでもないのに、オレはまた達した。
快感はやまず、抱き上げられ、オレはより強い快感と熱に襲われた。
「あぁあああ、あ、や、やだぁあああっ」
「ふん。自業自得だ」
オレを冷めた目で見ているのに、それすらも快感に変わる。
最早、オレは自分の身体を制御出来なくなっていた。
「か、カミュ先輩」
「なんだ」
「れ、レンはどうなるんですか」
「決まっているだろう。番として、子を産ませる」
「え・・・」
「当然だろう。我が伯爵家の跡継ぎのためだ。コイツが余計なことをしてくれたおかげで、探すのに手間取ったがな」
「そ、そしたらレンは・・・」
「当然我が家に入るのだ。アイドルなぞ辞めさせる」
「そ、んな・・・」
「愚問だな。他になければ俺は帰る。コイツをどうにかせんといかんのでな」
腕の中で、荒い息を紡ぐことも出来ずにいるオレを冷めた目で見下ろす。そこには情もなかった。
カミュが立ち去った後、楽屋では愕然と一ノ瀬トキヤが膝をついていた。
「そ、んな・・・」
「神宮寺・・・」
「酷い・・・レンの意志なんてないじゃないですか・・・」
聖川真斗は、泣き喚く彼を支えることしか出来なかった。
先輩に抱かれていったライバルの姿が頭をよぎる。
絶望に打ちひしがれ、最後の最後に逃げろと言った年上のライバル。弱味なんてちっとも見せない彼が欲情に濡れ、番の声ひとつで絶頂に達した。
こんな姿なんて見られたかなかっただろうに。抑制剤を飲んでいたということは、番を見つけたくなかったということだ。
アルファは番のオメガでなければ子供を作れない。そして、オメガは発情期のたびに他の男から身を守らねばならず、抑制剤を使う。
アルファに見つかったオメガに自由はない。子供を産むためだけの道具でしかない。
「神宮寺・・・」
     
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