酩酊
例えるなら、光。
キラキラってかんじではなく、閃光のような。そう。星が命尽きる間際の強い光。











この業界に入ったのは子供の時。子役の時はまあまあ売れていたけど大きくなるにつれて売れなくなって、三流アイドルに転落。よくあるパターンだ。
カルテットナイトを組んだ時も、まあ自分が売れそうだなってくらいにしか考えてなくて。
こんな感情を抱くようになるなんて露ほども考えてなかった。
週刊誌には不釣り合いだどかパッとしないだとか叩かれて、自信ややる気はドン底。それでもやりたくてがむしゃらに走って。付いてこない結果にあとどれだけ頑張れば許されるのだろうなんてしみじみと思ってしまう。
僕に、才能なんてものはない。努力しても実らない。
仲間であるはずのメンバーと顔を合わせるのも嫌になり、自分からソロの仕事を詰め込むようにして顔を合わせなくなった。そうしていくうちに、自分の仕事が徐々に減っていき、現実が現れる。
お前は要らないのだと。
現実に抗う力なんて残っていやしなかった。仕事を減らしていくと、入れる仕事もなくなる。
そうして、酒浸りの日々へと落ちていった。
金だけはある。夜毎店を渡り歩き、浴びるように酒を飲んだ。事務所から忠告を受けたけど無視した。呼び出しにも応じなかった。
死んでしまおうか。
アイドルにも人間にも戻りたくなかった。
失踪した友人の姿が浮かぶ。あの頃から、もう頑張ることができなくなった。頑張っても頑張っても、最悪が付いて回って離れない。
きっと、一思いに命を絶ってしまえば同じ場所にいける。
ああ、でも。彼を殺したも同然の自分なんかが同じ場所にいけるはずがない。いくとしたら、地の果て。
それもいい。もう頑張らなくてもいいところへ行きたい。
光なんて一筋も射さないところへ。
「っ、はぁあああンッ」
突如、快感に叩き起こされた。
微睡みから夢の世界へ揺らいでいたところへ、身体を裂くような感覚。
「えっ、あ、あ、あっああっ」
なんで。まだ発情期は来ていないのに。抑制剤も飲んでる。
酒で薄まった?そんなはずはない。今更、酒で薄まる量じゃない。
医者には飲み過ぎてドクターストップまでかけられた。それでも日毎量を増やした。
自分に才能がない理由なんて握り潰してしまいたくて。
「ひっ、い、いやだ、あっ、あ、あァあああッ」
絶頂と同時に、中に叩きつけられる。
腹の中を埋めていく飛沫。それは、間違いなく中で出されていた。
「や、やめっ、やめて、中、中はっ」
制止も虚しく、再び動きが始まる。
今度は、自分の陰茎までも扱かれ、快感だけを与えられた。
「あ、あァッ、う、・・・あ」
それは、いつまでも続いた。
解放されたのが、いつかなんて分からない。真っ暗な部屋の中、目隠しをされ、手足も縛られていた。
気付いた時には、真っ暗な部屋の中で裸で眠っていた。
でも、なんとなく見覚えがあった。そうだ。ここは、自分の部屋。
四肢も自由になっていた。暗かったけれど、覚束ない足取りでリビングに向かう。
「え・・・」
「よぉ」
見覚えのある後ろ姿。随分と長い間会っていない仲間の姿に目を瞠る。
「え、と・・・なんで、ランランがここにいるの?」
「いちゃ悪いか」
「そ、そうじゃなくて。あ、ねぇ、他に誰かいなかった?」
「いねぇよ」
それならば、自分に飽きて放り出したのだろう。
散々犯し尽くして、飽きて捨てられる。まるで芸能界にいた頃と変わらない。いや、それよりも酷い扱いではないか。
嗤笑が漏れた。
ああ、もう本当に死にたい。
「それより、嶺二。お前、あんまりそんな格好でうろちょろすんな」
「え、あ、・・・ご、ごめん」
よく見れば、一糸纏わぬ姿だった。
流石にメンバーの裸体なんてな見たくもないだろう。あの男に中出しされ続けたせいか腹も膨らんでいる。みっともないたらありゃしない。
黒崎蘭丸は、ジャケットを脱ぎ寿嶺二の肩にかけた。
優しく肩を抱いて、ベッドへと連れて行く。
「腹が冷えるだろ」
「う、うん・・・?」
妙に優しい手に、初めて寿嶺二は違和感を覚えた。
何を考えているのかよく分からない表情だった。だが、一歩一歩、ゆっくりと慎重に歩く彼はそんな素振りを見せる男ではなかったはず。
「ど、どうしたの。ランラン。な、なんか変だよ?ぼく、歩けるよ?」
口にしたのは、不安からだった。
何かがおかしい。
だが、黒崎蘭丸はくつくつと笑うだけだった。
おかしい。何かが、おかしい。
歯車がずれるような気がした。
「腹の子に障るだろう」
「らん、ら・・・」
絶句した。
それは、まるで蜜月を過ごしたような口調。
気付かなかった腹のふくらみが、男の出したもののせいだけではなく、命が宿っているのだとしたら。
「ら、ランラン・・・?あ、あの、ここに、どうやって、入った・・・の?」
それは、確信に近かった。いや、確信だった。
訊いたのは、最後の悪あがき。
「何言ってるんだ」
信じたくなかった。というより、信じられなかった。
彼は、そんなことをする人間ではなかったはずだ。ストイックで、どこか優しくて。
けれど、彼の口からは望む答えは得られなかった。
「あんなに愛し合ったのに、もう忘れたのか?」
一度も声を聞いたことがなかった。
だから、忘れていた。
彼と男の香りが同じことを。今の今まで気付けなかった。
「い、いや・・・」
黒崎蘭丸の手を払いのける。
彼はおかしそうに笑い、寿嶺二を見つめる。
「いや?お前の番だというのに、酷いやつだな」
「そ、それ、は・・・」
「まあ、いい。どうせお前はもう逃げられない」
つと、腹を指差される。
膨らんだ腹。そこに、宿る命。
「嶺二。お前は、もう死ねない」
ああ、そうさ。
分かってる。子供がいるならば、自分は死ねない。この子を殺すことなど出来ない。
二度も、大切な人を失えない。
黒崎蘭丸の手が、寿嶺二の頬を捕らえた。
「愛してるぜ、嶺二」
寿嶺二は、抗えなかった。
     
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