蘭嶺の場合
埼玉出身の寿嶺二は寒さにはあまり強くない。恋人の黒崎蘭丸と違って、寒い時はコタツでぬくぬくしていたい。だが、雪の日には外を転げ回るのも好きだ。
この日も、朝の寒さにぶるりと震えて覚醒した。だが、今日は仕事もない。恋人が起こしてくれるまで寝る。
寒さに、いつも抱きしめてくれる体温がなくて寂しい。恋人がいる方に擦り寄って、触れた温もりに抱き着いた。
が、やけに小さい気がする。気のせいだろうか。気のせいか。
「ん・・・れいじ」
うん。ほら、甘ったるい声で抱き寄せてくれるではないか。これが彼以外のはずがない。
安心して、二度寝しようとした。その時。
「う、ん・・・」
「え?」
第三者の声に、寿嶺二はぱちくりと目を開けた。
そして、
「え・・・あれ?・・・・・・あれれ?・・・えーと・・・・・・」
そこにいたのは、恋人。の、はず、はのだが。
なんか違う。ハッキリ言うと、幼い。
寝る時は、カラコンもタンポポ頭もなりを潜めているのだが、そんなものはいつも見ている。
だが、それを抜きにしても幼い。
いや、
「うぅわぁあああ!」
彼ではない。
「っ、どうした!」
寿嶺二の声に、眠っていた恋人が目覚める。
「は?」
そして、カラコンもタンポポも装備していない顔で首を傾げる。
「れい、じ・・・?」
「ランラン・・・?」
互いに、目を瞠る。
隣にいるはずの恋人はいない。
代わりにいたのは、恋人にそっくりの小さい子供。年の瀬は十くらい。
「え、あれ・・・え?」
目の前の小さな子供と恋人を見比べ、寿嶺二は目を白黒させる。
「え、だ、だれ・・・?」
それは、俺が聞きたい。とは、流石の黒崎蘭丸も言えなかった。隣には、恋人と同じ状況があるのだから。
そして、騒ぎに子供二人は目を覚ます。
「ん・・・」
「んー・・・」
その間、二人は固唾を飲んで見守った。
「え・・・」
「え」
「え、え・・・」
「え、と・・・うん?」
小さな黒崎蘭丸は今にも泣き出しそうに、小さな寿嶺二はただただぱちくりと目を丸くした。
「えーっと、き、キミは?」
「く、黒崎らんまるですっ」
「え?」
ウソ。
思わず、寿嶺二は呟く。恋人そっくりの子供は恋人と同じ名前を名乗った。
「はっ、まさか浮気っ?」
「ちげぇよ。そんなこと言ったらこれはどうなんだよ」
「デッスヨネー」
これと指差した小さな頃の自分に、寿嶺二は頷く。
それについては、流石の彼にも何の言い訳も、それどころか解釈も出来ない。
「おい、お前名前は」
「ことぶきれいじ、十才です!」
「・・・そうか」
やっぱりか、と頭を押さえる。
つまり、これはどう見ても十才の自分達本人である。
「ランランちっちゃい頃こんなに可愛かったの?なんでこうなっちゃったの?もう可愛いなぁ。おいで、お兄さんがぎゅーしてあげる」
「え」
「え」
「ねえねえ、おにいさんはだれ?」
「俺は、黒崎蘭丸」
「ランラン?かわいいね!」
「・・・」
(おいコイツこんな小さい頃から成長してねぇのかよ)
黒崎蘭丸はうんざりした。
早くも寿嶺二達はこの状況に対応している。対して、小さな黒崎蘭丸は不安げだ。
(・・・変わってるのも、それはそれで嫌だな)
小さな頃の自分を改めて見るのは恥ずかしいやらなんやら。
「ランランってこの時からお肉好きなの?」
「え、す、すきです」
「へぇ。ロックは?」
「ろ、ロック?」
「わお!まだ知らないんだ!でもタンポポは変わらないよね!」
「嶺二!」
ケラケラと笑う恋人は、たちが悪かった。オロオロしている小さな黒崎蘭丸は、矢継ぎ早に繰り出される質問にふえふえと泣き出しそうで。なんとなく居心地が悪い。
「ランラン、お肉すきなの?俺ね、おうちでおべんとう作ってるんだよ!からあげすごくおいしいよ!」
「お、おお」
「ことぶきべんとうっていってね、からあげいがいもすごくおいしいんだよ!」
「そ、そうか」
小さな寿嶺二は一生懸命話している。話し方やら身振り手振りはそのまま寿嶺二なのに、話す内容が可愛いので和む。大きくなったらただ五月蝿いだけなのに。
「ランランも食べてね!」
「ああ」
すっかり骨抜きになって、黒崎蘭丸は笑みを零した。頭まで撫でている。
「むー。お兄さんはしょぼんだよ!何あのランランの変わりよう!ショタコン?」
「嶺二、うるせぇ!」
「え」
「あ、おまえのことじゃねぇよ。あそこにいるデケェやつだ」
「むー」
小さな黒崎蘭丸は懐いてくれる様子もなく、恋人は小さな自分にかかりきり。面白くない。
寿嶺二は頬を膨らませ、ふんと拗ねた。
その様子を、小さな黒崎蘭丸がオロオロと見ていた。
     
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