奥様はお友達とおしゃべりが大好きです。
その日、すやすやと夜に向けて眠りについていると来客の鐘がなった。
一度や二度ではなく、何度も鳴るチャイムの音にレンは気怠い身体でインターホンをとる。
『やっほー!レン、ひっさしぶりー!』
『音也、あまり大きな声を出してはいけません』
『すまない、神宮寺。止めたのだが……』
『レンくーん、お菓子を買ってきましたよー。みんなで食べましょお』
『大丈夫だ、那月が作るのは止めた!』
『レン、ワタシはカミュにハバネロを買ってきマシタ』
「……今開けるよ」
随分大勢引き連れてきたようだ。
突然の訪問にそろそろご近所さんから何を言われるやら。それに、スターリッシュが揃っているとマスコミやらファンやらで余計五月蝿くなりそうだ。
レンは、エントランスを開けてやり、溜息をついた。
「せめて来る前に連絡が欲しかったな・・・」
久し振りの夫との蜜ごとに、期待に胸を膨らませて寝ていたというのに。
「ま、おみやげもあるっていうしいっか」
だが、仲間と久々に会えるというのは嬉しいもので。
レンは、イタズラな笑みを浮かべた。





「え?言いましたよ?」
「へ?」少ししてから、部屋に着いたスターリッシュに、連絡をしろと文句を零したレンだったが、きょとんとした顔で否定された。
「いつ?」
「先週、でしょうか……以前からカミュ先輩に伺いたいと話しはしてあったのですが、なかなか全員揃うことがなかったのですが、やっととれたので伺っても大丈夫かお尋ねしたところ問題ないとのことでしたが」
「……オーケイ、イッチー。多分、バロン忘れてたんだと思う」
先週と言えば、カミュもロケやらなんやらで忙しかった時期だ。臨月のレンに大事なことを伝えないとも考えにくいので、忘れてしまっていたのだろう。
「すみません。前日に確認しておけば良かったですね」
「イイよ。ま、おもてなしは出来ないけど、おみやげもあるみたいだし。オレも、みんなと話したかったしね」
しょんぼりと肩を竦めるトキヤの肩を叩き、レンはウィンクを残してキッチンに向かった。
おみやげは有名な洋菓子店の詰め合わせ。ケーキやマドレーヌ、マカロンやフィナンシェなどなど。よくもまあこれだけのものを買ったものだと感心する。大食漢がいるし、男七人だからちょうどいいだろう。
「にしても、これって確かスゴイ高いやつじゃ……」
悪阻が酷かった少し前だったら白目むいてたな、と思いながらお菓子を分けていく。
有名だが、行列店のような一般向けではなく、値段が張り、庶民は滅多に手に出来ない。慶事や贈り物などで買う程度だろう。
自分と会うために買ってくれたことを思うと、レンはにやけがおさまらなかった。
「腹でっかくなったな。もう産まれるのか?」
「うん。もう臨月だね」
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「ダーイジョウブ。引きこもりすぎててもダメだしね」
相変わらず心配性はなおらないようだ。生真面目な彼らしい。
レンはクスリと笑った。まるで変わらない。
レンがカミュと結婚して、アイドルを辞めて。それでもこうして会いに来てくれる。
本当は、みんなお休みするだけにしたらいいと止めてくれたけれど。カミュのお嫁さんとアイドルを両立出来ない。どちらも大切だからこそ、どちらかを疎かにしたくはなかった。
それに、今はお腹に子供がいる。これからはこの子のために時間を大切にしたい。
「ねぇ、レン。触ってもいい?」
「イイよ」
「あ、ワタシも!」
「ふふ、オーケイ」
音也とセシルが恐る恐ると触れる。そんなに怖がらなくてもいいのに、と思いながらも大事にしてもらっているようで面映ゆい。
「あ、蹴った!」
「レンに似てゲンキデスね。きっとカワイイデス」
「ふふ、セッシー、それバロンに怒られるよ?」
「あ、今のはナイショデス!」
「はいはい」
マスターコースではカミュに先輩として教授を受けていたのに、あの頃からずっと何かと言えば喧嘩ばかりして。ちょっとだけヤキモチやいたりしていた頃が懐かしい。
「僕はピヨちゃんを買ってきましたよー」
「ワオ!スゴイね」
なにやら大きいものを持っていると思っていたが、まさかぬいぐるみとは。カミュが見たら先を越されたと不貞腐れてしまうかも。
「俺ははえーだろ、って言ったんだけどな。買うって聞かなくて」
「はっはっは。四ノ宮も気が早いな。俺は、これを」
「……」
これは、ツッコミ待ち?と、レンは首を傾げた。
彼らしいというかなんというか。真斗のプレゼントは、習字道具だった。
「真斗、これ、早いとかいう問題じゃねえだろ」
「何を言う。心を落ち着けるには、早いうちから精神統一の術を知るべきだ。畳は持ってこれなかったが、これくらいならいいだろう」
「っぶ!あっはっはっはっは!」
とうとうレンは噴き出した。翔は呆れかえり、トキヤは肩を震わせている。
自信満々に頷いているところが余計に笑いを誘った。
「ふふ、これならバロンもしちゃうかもね」
きっと、興味深いと笑うに違いない。
「あ、私はこれを」
「……」
「お腹の中にいる頃から教育は必要と言いますからね。親子で勉強も大切ですよ」
「胎教」の本をざっと十冊程度。
「うん。イッチーらしいね……」
ちょっと、やだなぁ。と思ったのは、内緒にしておこう。
「あ、俺とセシルと翔は何にしたらいいか分かんなかったから、お菓子にしたよ!」
「あ、ああ、ありがとう。美味しいよ」
多分、これが一番嬉しいかもしれないとは言わないでおく。他のメンバーの名誉のためにも。
「レイちゃん達も来たいって言ってたけど、今日は仕事なんだって」
「カルテットナイトは収録があるようです。その後も、カミュ先輩以外の先輩方は仕事があるらしいです」
「ブッキーもランちゃんもアイミーもみんなよく来てくれるよ」
蘭丸は可愛い後輩の子供だからか、今から楽しみにしている。どちらが父親なのか、よくカミュと言い争いになっているのがおかしくてならない。
藍は身体にいいものをよく買ってきてくれて、嶺二は寿弁当を買ってきてくれるから正反対の二人に笑ってしまう。
「しかし、実際のところどうなのだ?少し前までは、悪阻が酷かったとカミュ先輩が仰っていたが」
「安定期に入ってからは楽になったよ。でも、まだ気は抜けないみたいだね」
「いいことです。だらしのなかったあなたをしっかりさせてくれるのですから。あまり気を抜きすぎないように」
「ふふ、心配性だなぁ」
「な、何をっ」
トゲのある言葉も、照れ隠しだと思えば面白い。
突けば、顔を真っ赤にして否定してくるものだからついついからかってしまう。
「早く産まれてホシイデス」
「おや?どうしてだい、セッシー」
「産まれたらカミュの悪行を教えてアゲマス」
「っぶ!そ、それはいいかもね」
至極真面目な顔で言うので、レンは笑いを堪えるのが大変だった。
決意に満ちた顔で、子供に何を教えるというのか。ちょっと聞きたくなった。
「じゃあ、オレはイイトコロを教えたらちょうどいいかな?」
「イイトコロ?カミュにそんなトコロアルのデスカ?」
信じられない!と、セシルは大袈裟にショッキングな仕草で驚いて見せた。
一体、セシルにはカミュがどんな風に見えているのだろう。レンには優しくて、カッコよくて、ちょっとだけイジワルな旦那様なのだが。レンにはもったいないくらいで、レンが奥さんでいいのかと不安になることも多い。
「レンにはもったいないくらい、カミュはアクマデス!」
「ほう?」
その時、ブリザードが吹き荒れた。
「昼日中から人の妻に悪口雑言吹き込んでくれるとはいい度胸だな」
「か、カミュ!」
「バロン!早かったね」
「コイツらが来ると言い忘れていたからな。ついでに様子を見に来たのだが、正解だったようだ」
カミュはレンにキスを落とし、ただいまと言って抱き締めた。おかえり、と抱き返す。
「来い、愛島。貴様の性根から叩き直してくれるわ」
「ニャー!カミュ、ヤメテクダサイ。暴力ハンタイデス」
「産まれてもいない子供にあることないこと吹き込もうとしたのは何処の誰だ、このバカ猫が!」
「あることしか吹き込みません!」
「そういう問題ではないわ!」
「あーあ、程々にねー」
きっと時間をもらってくれただろうに、なんてタイミングの悪いことか。まあ、楽しそうだからいっか。
「いいのですか?」
「うん?あー、うん。ちょっと寂しいけどね。後で甘えるから」
ふふ、とイタズラぽく笑ったレンに、トキヤはしかつめらしい顔で溜息をついた。
「はいはい、ごちそうさまです」
「おかわりはいかが?」
「要りません!」
「あっはっは……は?」
その時、レンは微かな痛みを感じた。
強張るレンに、スターリッシュが訝しむ。
痛みは打ち付けるように徐々に強くなっていく。
これは。
レンは、目を瞠る。
そして、
「産まれる」
と、至極真面目な顔で告げた。
     
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