貞淑な恋人の可愛さがあまりすぎて困る
俺には、それはそれは出来た恋人がいる。貞淑で、常に俺を立ててくれて一歩後ろをしずしずと歩いて来るような大和撫子だ。言葉の端々からは品の良さが窺える、今時珍しい品行方正な恋人である。
男だけど。









俺の恋人は、一ノ瀬トキヤ。スターリッシュの中で芸歴で言えば最年長。歌もダンスも、演技も出来る実力派アイドルである。昔は音痴だったと本人は言うが考えられない。もしそうだとしたら、より一層彼の評価は高まるばかりだ。
そんな出来た人間が、俺と同じ年だなんて驚くしかない。アイドルになるために努力を積み重ねてきたが、彼は歌いたい、という願いのために芸能生活を続けながら学園にも通っていた。感嘆に値する。
彼が俺に心を開いてくれるようになったのは、スターリッシュがデビューしてからだ。何度か仕事の現場が重なり、同じ年ということもあって、会話も増えた。次第に距離は縮まり、マスターコースが終わる頃には恋人となった。今では一つ屋根の下で共に暮らす中である。
同棲するようになってから、変わったことはない。強いて言えば、生活がギリギリ重なるようになったことくらいか。食事だけは一緒にとることにしているため、どんなに疲れていても顔を合わせて食卓を囲む。
アイドルになったということもだが、「うたプリアワード」を受賞したことによって忙しさは倍以上になった。一ノ瀬トキヤは元々幅広く活動していたがより範囲を広げて。俺は、舞台を主に活動している。
勿論、スターリッシュとして活動することもある。だが、ソロの活動も同時並行しており、俺たちの作曲家七海春歌が惜しみなく才能を発揮してくれるおかげで日々多忙を極めている。
だが、偶に思う。
ほんの少しでいい。恋人との時間を増やしたい、と。
ワガママを言える立場ではないことも、今が大切だということも承知で。すれ違ってばかりの恋人ともっと一緒にいたい。愛し合いたい。そう思うのは、自然の摂理ではないだろうか。
あの、いつも俺のために我慢してぐっと堪えて、寂しそうにしている目を甘やかしたい。
そう思っていた。
「ん、聖川さん」
だが、完全にこれは予想外だった。
「ひもひいい、でふか?」
天を仰ぐ。
夢ではない。現実だ。
夜遅くに俺は帰ってきた。真っ暗な部屋の中。明かりをつけず、手探りで進む。ベッドでは一ノ瀬トキヤが静かな寝息を立てて眠っていた。その後、シャワーを手早く済ませ、ベッドに潜り込んで骨ばった体を抱きしめて眠りについた。
だが、妙な感じに眠りを妨げられて目を覚ますと、そこには貞淑と評判の最愛の恋人がいた。それも、俺の足の間で、肉棒を頬張って。
当然、俺は驚いて魚のようにパクパクとするしかなかった。
一ノ瀬トキヤは、放心する俺をよそにむっとした顔で文句を言う。口に含んだままで。
「あなたがわふいんへふかはへ。ほんなにわたしをほふっておいた」
可愛らしい唇が、俺が悪いと責め立てた。放っておかれたからだと。
一体どこでそんなこと覚えてきたんだ!と言う間もなく、一ノ瀬トキヤは俺に跨った。
「私を放置した罰ですよ」
肉棒の根元をリボンできゅっとちょうちよ結びして、一ノ瀬トキヤは自分で解した後ろの孔へ埋め込んだ。壮絶な色気としっとりと伝う汗が艶かしい。
ごくり。と、唾を飲む。
「ふふ。まだ、私でも誘惑できる、みたいです、ね・・・」
途切れ途切れの拙い言葉が、ニヤリと笑った唇に乗せられる。
一ノ瀬トキヤは、でも、と自身の中に入ったばかりの熱塊を握った。瞬間、下半身から燃え滾るような感覚が迫った。
思わず呻き声をあげた俺を、楽しそうに見下ろす二つの目。
「まだ、ダメです」
「今日は、やけに意地が悪いな」
「あなたが悪いんですよ。私を放っておくから」
少し拗ねたような口調は、けれど不安に揺らいだ双眸が真実を語っていた。
一ノ瀬トキヤが実力行使に打って出るほどだった、ということだ。
俺が悪い。でも、こうやって実力行使に出る一ノ瀬トキヤも可愛いと思ってしまう。
「すまなかった」
そっと頬に触れる。すると、そっぽを向いていた瞳が、潤んだ眼差しを向けた。甘えてもいいの、と聞いているようで可愛らしい。
「トキヤ」
「真斗さん……」
滅多に呼ばない互いの名前を呼ぶと、昂ぶっていた熱が再び湧き上がる。
引き寄せられるようにキスをする。
「明日は早いが、悪い」
一ノ瀬トキヤの身体を押し倒した。ほんのりと朱が走った顔が、不安に揺れる。
「明日は寝不足確定だ」
寝る気はないからな。と付け足す。
途端、不安に揺れていた瞳が瞠られた。
「怒るなよ」
額にキスを落とす。
「……私を放っておいたんですから、寝不足で出来ないなんて許しませんからね」
甘い小言に、笑みをこぼした。
「善処する」










「あっ、真斗さ、や、やめっ」
ずっぷりと奥を抉ると、甘い声が鳴き声を漏らす。
今更やめてやるつもりはなかったので、唇を塞いだ。
「ふ、ぁ、ふっ、あ、あっ」
ぷるんと存在を主張する竿には、俺に付けられていたリボンを丁寧に付けてやった。ちょうちょ結びまでして、なんと可愛らしいことだろう。
後ろの孔は、怒張を受け入れ、淫靡なそこは足りないときゅうきゅう締め付ける。正反対の可愛いそこをつつくと、きゅうん、と鳴く。
「言っただろう。寝るつもりはないと」
「真斗さんっ、まさ、あ、あアッ」
苦しいと早くも弱音を吐く唇は、三日月を象っていた時よりだらしなく開いている。涎が溢れ、髪を振り乱して身悶えるから飛び散って。
「トキヤ。先に仕掛けたのはお前だ。それなのにこんなにして悪い子だな」
ぷるぷると先走りも出すことが出来ずに震えている先端を指で弾くと、ぶるぶると震えた。
「ひぃんっ」
ガクガクと痙攣が走り、仰け反る。しかし、快楽を逃せず、痙攣は続く。
腰を押し付けているのなんて、気付いてもいないのだろう。
ぐりん、と円を描くように奥を貫く。
「あァアアッ」
小さな悲鳴をあげて、一ノ瀬トキヤはベッドに倒れた。微かに痙攣は続いているようだから、ドライでイったのだろう。なんて淫らな。
だが、この程度で放してやるつもりは毛頭ない。
リボンを解く。しゅるり、と絡まりながら小さな肉棒は、ぷるぷると震えた。
そして、最奥を叩く。
「ああァあああッ!い、いや、いやぁあああッ」
久々の絶頂に、一ノ瀬トキヤは無理矢理起こされた。涙を零し、髪を振り乱して泣き叫ぶ姿は艶美そのもの。
「ごめ、なさ、ごめん、なさい……」
必死に許しを請う姿も可愛い。ふと笑みを向けると、期待が現れるところも。
だが、一ノ瀬トキヤの両足を肩に抱えた。
「あ、あ」
いいところを、貫く。
「あああああァッ!」
「許さない」
どんなに謝っても、煽った責任はとってもらうぞ。トキヤ。
「お仕置きだ」
「は、ひ……」
恍惚に、頷いた恋人に、やっぱり別なお仕置きが良かったかなと考えないわけではなかった。










朝。予想通り、一ノ瀬トキヤはベッドから起き上がることも出来なかった。むぅっと拗ねる恋人を、丁寧に身体を起こしてやった。
朝食はベッドで済ませることにして、甲斐甲斐しく一ノ瀬トキヤの口まで運んでやるのは楽しかった。あの一ノ瀬トキヤが、素直に口を開けて待つ姿の可愛らしさといったら!
もし仕事がなければ、また挑んでいたかもしれない。
朝食を済ませ、身支度を整えようと立ち上がると、強い力に引き戻される。言わずもがな、拗ねた恋人である。
一ノ瀬トキヤは、むぅっとした顔を崩さず、俺の腕に両腕を絡ませた。そっぽを向かないで俺を見てくれればいいのに、とは言わないでおいた。
「どうした、トキヤ」
訊ねても、応えはない。
暫くそうして待ってみる。
稍あって、
「たまには早く帰ってきて、私をかまってください」
可愛いおねだりをされた。
「ああ。沢山いちゃいちゃしよう」
恋人の可愛いおねだりに頬を緩め、俺は散々抱いた身体を抱き締めた。
絶対、何が何でも今日はさっさと帰ろう。と、心に決めて。
「はい」
嬉しそうな応えが返るのは、すぐのことだった。
     
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