俺の可愛い犬
「ン、ン、……ンンッ」
艶かしい水音に、仰け反って抗う。
声を漏らさないようにと塞がれた唇は、甘いものを漏らしていて意味を成していない。拘束から垂涎する様は手を伸ばしてみたくなるほど色めいており、つと背中に滑らせれば大袈裟にひくつき、中に入っていた男根が締め付けられた。
刹那、飛沫を打つ。
「う、……っ」
「ン、んン……ッ」
解放感。
ともに、締め付けられる。ひくひく、と。
締め付けは弱まりながらも続き、不規則に熱を煽った。
「ン……ン……、」
達したというのに、解放されず、むしろ苦しくなっているのだろう。震える肩と立てることもままならない腕が力ない。
広い背中。しっかりと鍛えられた身体。筋肉は美しい。
不意に衝動に駆られ、背中に噛み付いた。悲鳴とともに、締め付けられる。解放と同じくらいだった。
自分より少しだけ小さな背中が、けれど比較的筋肉質な肉体が快感を流しきれずに切なく震える。
噛み跡が残る。
同じ場所に噛み付いた。思い切り。
「ッ、ンンンーッ」
がぶがぶと、骨まで食べる勢いで噛み付いた。
噛み跡は鬱血が出来、ぬら、と垂涎の後がうっすらと残る。
鼻息がふうふう、ふんふん、と荒々しくなり、快感を秘められなくなっていた。
それにすら興奮する。
指で拭ってやると、甘い声が落ちる。
緑色の目がそろと様子を窺う。切なげな視線が映る。
まだ?
そう言いたいのが聞こえてくるようだ。
クツリ、と一笑した。
可愛いやつめ。
可愛い顔をしていながら、小さい頃から水泳に身を投じ、身体は反対に逞しくなっていった。かと思えば、ホラーがダメだったり、おっとりしていたりと可愛らしい。
水泳しかして来なかった自分を落とした、ツワモノでもある。
好きと言われるのは擽ったい。追いかけてきて、きゅっと手を握ってそばにいる。
睦み合う時もそうだ。好きという気持ちを惜しみなく見せてくれる。しがみついて、助けてと縋り付いて来る。
可愛いことをされて、落ちない男がいるだろうか。
「真琴」
「ン……」
期待に潤む目。裏切って歪ませてやりたい。
「愛してる」
「んん……」
俺も、と応える瞳。
確かな言葉がなくとも、全てを物語る視線が何よりもの証。そして、それこそが情愛を突き動かす魔性の代物。
唇を奪う。とろりと瞼が下りる。食むと、同じように唇でされる。
唇で愛し合う。舌はなんとなく使わなかった。
苦しいだろうに、拘束された口でするものだから、息が途切れ途切れになっている。しかしまたそれが可愛いのだから困ったものだ。
猿轡を外す。
「そう、くん」
「うん」
「大好き」
えへへ、と。ほにゃあと緩む顔。
可愛くて仕方がない。拘束に腹を立てることもなく、全身で尻尾を振る。これが可愛いと言わずどうしようか。
「真琴」
「なに?」
「頑張ったな」
細い道に入っていたものを抜いた。
「あ、ああ……」
こぽ、こぽ、と溢れ出る白濁としたもの。
我慢を重ねていたからひくひくと揺れながらも感じている。
「愛してる。愛してる、真琴」
耳元で囁くように唱えれば、うんうんと頷きが返されて、頬が緩む。
頭を撫でる。すん、と匂いを嗅ぐとすっかり慣れた匂いが鼻腔を擽った。鼻先をぐりぐりと押し付ければ、うんうんと頷く。
好きだよ、好きだよ、と。
「真琴、真琴」
「そうくん」
拙い声が、紡ぐ。
髪も食むと、照れ臭そうに首を振った。そんなことをしても意味ないのに。
挿入したままの男根を引いた。ずるり、と抜ける臨戦状態の雄。
物足りなさそうに瞳が流される。
瞬間、
「あ、あああああああアッ!」
ズパンッと、肉襞の中へ戻った。
硬く引き締まった尻を掴み、腰を押し付ける。後腔を指で広げ、広がる穴を指で割開くと、ぎゅうぎゅうと締め付けが増した。
噛み跡に噛み付き、ギリギリと噛み捻じる。
「い、痛ひぃいいいっ」
噛み切るほどに捻じあげると、ボロボロと泣き出した。ひぐひぐと、しかしやめてと言わない。懸命に応える。
今度は耳を甘噛みした。すると、後腔がきゅうん、と甘く締まる。
ちゅうちゅうと中まで侵入すると、ぴくんぴくんと悦ぶ。
「そうくん、そうくん」
可愛い顔して、大柄で、人一倍怖がりで。
けれど、自分の前ではいつも甘えた。甘えるし、甘えられたがり。
「ん、」
差し出される唇。キスして、と。
応えてやると、舌を使って愛してくれる。舌を伸ばし遊び始めると、より必死さが増した。
「真琴」
「んぅ……」
広げた後腔にはもうひとつくらい入りそうな余裕があった。
「真琴、愛してる。……愛してる、真琴」
「そうくん。おれも……」
指を引き抜く。尻たぶを掴み直し、勢い良く腰を引き、また挿入した。
「あ、あっ、は、アッ」
「真琴っ、真琴っ」
「そう、く……そうく、ぁあっ、あ、あ、」
唇を、重ねた。
互いの唾液が行き来する。
「あ、あ……あぁあああッ!」
一際奥を穿つ。
一瞬の後、広い背中が反り上がる。
そして、最奥に飛沫を叩きつけた。










「真琴」
緑の瞳がゆらと覗く。閉じられた瞳から現れた神秘のようで、この瞬間が好きだ。
「そうくん」
前には痕がないのに、背中に深々とつけた噛み跡はドス黒く、起こした身体は艶かしく黒いバラのようだった。罪を犯し、罰として与えられた証のような。
もしそうだとしたならば、罰として自分に与えられることになってしまったのだろう。天上の有翼の使いは、無垢なままであったならば、そのまま無知で過ごせたに違いない。
「いま、何時?」
「五時。まだ暗いよ」
「そっか。寝よ?」
「ああ」
ごしごしと目を擦り、隣で座る自分に抱き付いてくる大きな犬。中身はかまって、愛して、と啼く大型犬。
布団をかぶり、潜り込む。ぬくぬくの子供体温が出迎えた。
「おやすみ、そうくん」
「おやすみ」
「大好き」
大柄な自分より少しだけ小さい身体を腕の中に閉じ込めた。
閉じた瞼の奥で、そうくん、と呼ぶ声がほにゃりと笑った。
     
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