光が、射し込む。右を見ても左を見ても暗闇が続いていたそこに。やがて光は収束し、一か所で輝きを放ち始めた。
 来たぞ。
 ただひたすらにずしんずしんと歩いていたそれらが光へ向かう。
 ずしん、ずしん。ぐもぉおおおお。
 光を見つけたことにより、意気揚々と雄叫びをあげた。
 ずしん、ずしん。ずしん、ずしん。
 それらは光へ到達する。地響きをたてて、唸り声のような大音声をあげて。ようやっと辿り着いた。
 その時。
 光から何かが放たれた。ひとつふたつ……むっつ。
 六つの放たれたものは、それらの隣を物凄いスピードで駆けて行った。振り返る間もなく、風のように通り過ぎていく。それらが来た道へと。
 その正体に気付いたのは後続だった。ぴゅっと躍り出たのはやや小柄な禍々しき気配である。牙を剥き、咥えた短刀で今にも襲いかからんとした。
 しかし、横に一閃。瞬きの間に薙ぎ払われる。
 これはまずい。さあいよいよ見ているだけではならなくなった。後続の大仰な足音をさせていた部隊が次々と光へと向けていた足を、その六つのものへと足並みをそろえる。
 ずしん、ずしん。ずしん、ずしん。
 六つの光は襲いくるそれらをひとつひとつ切り払い、前へ前へと進んで行く。
 一方、先頭を行くそれらはとうとう光へと辿り着く。
 ぐもぉおおおおおお!
 一段と大きな雄叫びをあげる。
 そして、
「お覚悟!」
 一歩踏み込んだその瞬間、真っ二つに切られた。
「おやおや。嫋やかでいらっしゃる」
「おいおい。おまえさん皮肉がすぎるぞ」
「はて。なんのことでしょう」
 刀を鞘に納めることなく、一期一振は柔らかな笑みを作った。
 先陣を奪われた鶴丸国永は、やれやれと肩を竦める。どうも相当にお冠だったようだ。他の連中を待つことなく先陣を切るだなんてらしくない。
 いや、だがまあ。しかし。そうなるのも仕方ないよなぁ。
 つと見上げた先には、大きな体躯。禍々しきものを纏った歴史修正主義者。
 鶴丸国永は、目の色を変え、鋭い光を宿すと、一瞬にして間合いを詰めて切りかかった。歴史修正主義者はなすすべもなく霧散していく。
「すまんなぁ。俺も到底許す気はないんだ。……黙ってくたばっていろ」
 そう吐き捨てると、次の敵の来襲に備えた。
 まったく嫌になる。主のいる本丸を何故汚されなければならない。何故主がこんな目にあわなければならない。
 ただ願っただけだ。君が笑っていてくれればと。その目にある寂しさや羨望を取り除くことは出来ずとも、笑顔を増やしていければと。
 だのに。ああ、だのに。なんたる無様なことか。あの格好つけの同胞ではないがそうこぼしたくもなるというものだ。
 部隊は全部で三つ。
 ゲートから襲いくる敵を討ち滅ぼす足止め部隊。
 ゲートから敵陣の真っ只中に突っ込み、主の足取りを追う救出・捜索部隊。
 そして所定の時刻までに戻らなかった場合に備えての第二部隊。
 残りは漏れた敵を各個撃破しつつ。部隊が壊滅した場合に備える。
 足止め部隊に志願したのは、一期一振、鶴丸国永、鳴狐、太鼓鐘貞宗、明石国行、蛍丸。
 彼らはゲートより来る敵を迎え撃ち、主帰還のその時までこの本丸を持ち堪えさせるのが役目だ。
一期一振に先陣を切られた他の面々は、険しい面持ちで立つ。気怠い雰囲気を纏う明石ですら目の色を変えていた。
 思いは皆同じだった。主のために。ただそれだけだった。
 そして、ゲートの中を突き進む影らは六つ。
 愛染国俊を筆頭に、にっかり青江、大倶利伽羅、不動行光、小狐丸、江雪左文字が後を追っていた。
 襲いくる敵を討ち滅ぼしながら、主の気配を探る。森の中でたった一枚の木の葉を探し当てるようなものだ。それは困難を極めた。しかし、主との間に結ばれたたった一本の縁を信じて前へ前へと進み続けた。
 正直に言うと、主の気配など露ほども感じない。本当にこの中から主のいる時代へと飛べるのか。一期一振の案は荒唐無稽に思えた
だがそれ以外に方法はないのだ。今はただ信じる他ない。それに倒れたとしてもまだ第二部隊が控えている。彼らがいるなら心強いというものだ。
 一刻が経っただろうか。正確な時間は分からない。切っては進みを繰り返し、どれくらい経っただろう。体はくたくただった。主救命その一言が倒れそうになる自身を支えていた。
 目はもうおぼろげだ。敵を倒すのもやっとだった。いや、ともすれば、少し気を抜いただけで切り倒されるだろう。今は気を抜かないようにするだけでせいいっぱいのようなものだ。
 しかし、敵はどんどん強くなってい言っている。間違いない。こちらの疲労と反比例して強敵が現れるようになっていた。これは足止め部隊もただではすまないだろう。
 どうか残ってくれ。主のために。
 生き残るんだ。みんなで。
 けれど、意識はもう白みかけていた。
「愛染!」
 愛染国俊は誰かが自分の名を呼ぶ声を、どこか遠くで聞いていた。
 ふらり。馬から崩れ落ちる体。左手からは短刀を咥えた敵が今正に襲いかからんと迫っていた。
 愛染の名を叫んだにっかりが駆け寄らんとした。その時。
「どっけぇええええええい!」

 彼らは頭を抱えていた。
 ゲートを開く。それを最後にスレッドの更新は途絶えていた。安否を気遣う声、釣りだと言う声と多数の声が埋め尽くされ、すぐにスレッドはいっぱいになった。
 彼らは頭を抱える他なかった。自分達にはもうなす術がない。外から開けようにも本丸の場所すら分からず、中から開けられたら敵に襲撃されてしまうだろう。ああどうしてこうなったのか。今更悔やんでも仕方ない。
 スレッドから連絡を試みようにも、もう終わってしまって書き込むことが出来ない。いやこれも敵に監視されていることを考えると迂闊に書き込むことが出来ない。正に八方ふさがりだ。
 どうしたものか。ただこの現実がなくなってしまえば一番簡単である。こんな時に歴史を変えてくれる敵が羨ましいだなんてそんなバカなことを考えるくらいには切羽つまっている。

     
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