父親たちは子どもたちがかわいい
 かわいいかわいいかわいい! なにあれ! なにこれ! かわいい!
 ピンクの可愛い頬。猿みたいな顔。毛も生えそろっていない。
 なのに、かわいい。これって人間? 人間だ。いや、半分は違う。神の末席の更なる末席に名を連ねる。
 人と神の眷属の間に出来た子供。母胎にいた時から一体どんな子供なのだろうと楽しみにしていた。きっとかわいい。愛されたがりの自分よりもずっと。だって彼女の血を引いているのだから。
 たった今、産道を通ることが出来た子供は想像以上にかわいかった。こんなの予想出来るわけがなかった。かわいすぎる。
「や、やすさだ! やすさだ! かわいい! ねえ、かわいい! 俺、夢見てる? 現実だよね? ほっぺつねって!」
「僕のつねってよ! 清光が父親だなんて夢だよね? だってこんなに可愛いよ!」
「かわいいよね? ゆめ? 長曾祢さん! どうしよう!」
「大丈夫だ。紛うことなきお前の子供だ」
「堀川、和泉守!」
「加州君にそっくりでかわいいよ!」
「安心しろって!」
「う……うわぁ、うわぁうわぁ! 主! ありがとう! かわいい! 超かわいい! 俺、大事にする。この子大事にする。主とこの子を守る!」
「私こそ、ありがとう」
 柔らかく微笑むから、ぶわっと涙腺が緩んだ。笑いながら泣くという器用さを発揮した。
 それから暫くして、まったく予想だにしていなかった二人目が産まれることとなる。第一子は男の子だったが、第二子は可愛らしい姫だった。一人目以上に大喜びして卒倒した俺を、同族達が介抱してくれたのはいい思い出だ。











 若君も姫君もすくすく育ち、最近では二人とも伴侶を迎えた。
 と言っても、迎えるのはずうっと先のことだと思っていて、ましてや半分自分の血を引いている彼らのことだから、人の身である主の寿命までには伴侶を迎える予定だったのである。
 二人が産まれた瞬間から何処ぞの姫君や若君との縁談を持ってきては、容赦なく切り捨ていった。生涯を共にするのだ。平々凡々、穏やかに優しく暮らしていけたらいいなど言わない。絶対に悲しませない相手でないと許さない。
 新撰組の同族達も縁談を吟味し、どれも捨てまくっていた。
「俺らの姫だぞ? 成金は却下だ!」
「ハッ! 優秀だけで世の中渡って行けるかよ! 苦労させたら乗り込むぞ!」
「そうだね、兼さん。襤褸を纏って、その日食べるのにも困るようになったらまずは首を落とそうか」
「沖田君に合わせる顔にしてはあっついなぁ」
 なんにしろ、これは加州には願ってもないことで。次々と舞い込んでくる縁談の半分以上は任せた。あまりにも間を空けず来るので渋々手を貸してもらったのである。
 だが! これは望んでいなかった! これだけは!
 加州は思う。
 一番最初に産まれた若君はそれはそれは美しい面立ちで。産まれた時に父加州にも、本丸中に可愛いと大絶賛されただけあって美丈夫へと成長した。細身ではあるがしっかりとした身体付きで過ぎることはなく、また艶やかで色を含んでいた。
 しかし、この若君は姫君が産まれたその日にやって来た同族――鶴丸国永によって奪われた。
 なんで! どうして! あの驚きジジィなんかの手に! あの陰険古狸の魔の手から逃れられたかと思えば、もう一人のビックリジジィが待っていたのである。
 これには加州は悲観に暮れた。いつか何処ぞの姫を娶って、母が世を去っても二人で仲良く暮らしてくれたら。そう思っていたのに。
 次に産まれた姫はそれはそれは可愛らしい姫君に育った。産まれた時から、こんな人間がはたして世に存在するのかという顔立ちであったが、嫋やかで淑やかに成長し、こちらもいつかは何処ぞの若君へ嫁に出そうと考えていた。とは言っても、姫君である。目の中に入れて自慢して歩きたいのである。絶対にすぐにはやらんと決めていた。ずうっと可愛がってやろうと。
 しかし、例に漏れず、こちらも同じく同族のにっかり青江に奪われた。よりにもよって、あのエロ脇差に! 口を開けば子供達に聞かせられないようなことばかり言う同族に!
 なんてことだ。蝶よ花よと育てたのに。ぬかった。三条ばかりを警戒して肝心なヤツを警戒していなかった。
 姫君が奪われてしまって暫くは新撰組が通夜になった。沖田組と言われる二人を筆頭に、自分達の子供も同然だった二人が何処の馬の骨とも知れているが絶対に嫁に出したくない同族トップを争うやつらなんぞに。
「安定おじさん。お兄ちゃん何処行ったか知らない?」
「見てないよ。それより姫。お菓子を貰ったから一緒に食べよう?」
「もうっ! おじさんがいっぱいお菓子をくれるから最近太ったのよ。青江にもちょっと触り心地がよくなったって言われたんだから!」
「へえ……?」
 よし、アイツ殺そう。
 オッケー。
 目線だけで会話を交わし、二人は剣を抜いて、くるりと踵を返した。
「あ、待った待った待った! 私、今チョーお菓子食べたい気分! 長曾祢のおじさまと和泉のおにいちゃんと堀川のおにいちゃんも久々に一緒に食べたいなぁ!」
「……」
「……」
 どうする。
 食いたい。めっちゃ食いたい。
 正直あの男を殺してやりたいが、姫とお菓子も捨てがたい。だが、めっちゃ殺してやりたい。どうしよう。
「お父さま! おねがい! あっ、今日一緒に寝ましょう! ね? ね?」
「母さまは?」
「もちろんよ!」
「……僕は?」
「新撰組のみんなで川の字で寝ましょう! ね!」
 一刹那。二人は再びくるりと踵を返し、
「そうだね。姫、家族みんなで寝よう。お兄ちゃんも呼ぼうね」
「姫と寝るの久々だなぁ。いっぱいお話しようね」
 誰にも見せられないほどに相好を崩した。
 一方、その頃、
「長曾祢さーん。今日とーめてー」
「おう、どうした」
「つると喧嘩した」
「ほう……?」
「だから今日みんなで一緒に寝ようよ」
「……それはいいな。沖田の二人も誘おう。和泉守、堀川」
「任せておきな、長曾祢さん!」
「若君と同衾なんて久々だね!」
 まったく都合のいいように話が進んでいたことを、二人は知るよしもなかった。
「姫。はい、手だして」
「僕も」
「はーい」
「今度いっしょにおでかけしようか」
「あ、ずるい」
「ほんとう? 私、新しく出来たお店に行きたいの。お父さま、そこへ行きましょう!」
「いいよ」
「この前おいしそうな甘味屋見つけたから行こうね、姫」
「やったぁ!」

     
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