決して認めているわけではなく
「エイワズ!」
空中に文字が浮かび、力を持ち敵を穿つ。おぞましい断末魔をあげ消滅していく。
「ふぅ。いっちょあーがり」
杖を肩に、戦闘後の余韻に浸る。妙な昂揚感と、猛々しいものが胸中を荒ぶっていた。
「おつかれさま、キャスター」
「おう」
「マシュとみんなも」
マスターを先輩と呼ぶデミ・サーヴァントは、可愛らしい顔をふんわりとさせて応えた。
共にレイシフトに同行した他のサーヴァントも、それぞれマスターに応える。
と、その中の一人がキャスターの隣に立つ。キャスターは一瞬だけ眉を顰めて、魔術に集中した。戦いの途中で脱いだ上衣とインナーを着るためだ。
しかし、隣に立ったサーヴァントはぬっと手を伸ばしキャスターの脇腹を掴む。「ひょあっ」と、大英雄らしからぬ声をあげてしまう。
「な、なにすんだ!」
「勿体無いので先に堪能しておこうかと思いまして」
「アホかーっ!」
鼓動のあたりに耳を寄せ、決して薄くはない胸板にぴたりと顔を押し付ける。円卓随一と言われる美しい顔立ちが、豊満なレディの胸ではなく肉体派魔術師の胸に埋まっているのを他のサーヴァントたちがありえないものを見たかのような顔で見ていた。
「おいっ。はなせっ」
「すみません、もう少しだけ」
「っ、」
この野郎!
握り拳が作られるが、振り下ろされることなく。顔を真っ赤にしながらわなわなと震えた。
「キャスター。ちょっとは抵抗した方がいいんじゃない?」
「……それが出来るならこんなに悩んでねーよ」
「……なるほど」
ごもっとも。
マスターは肩を竦めて、先に行ってしまった。サーヴァントも後に続く。
取り残されたキャスターは大仰に溜息をこぼし、胸にある男の頭の上に顎を乗せた。
「納得されるのもなんだかな」
ぽつりとこぼされたそれに、返ることはなかった。
     
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テーマ「人外ファンタジー」
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