孕ませないセックス
「おーきーてー起きてください」
ゆっさゆっさゆっさ。ゆっさゆっさゆっさゆっさ。
まだ幼さの残る声と、地震でもおきたかのような揺れに意識を引っ張り上げられた。ほわほわと夢の中を彷徨っていた頭はまだ覚醒を良しとしておらず、駄々をこねていた。
加えて、カーテンの隙間から漏れる光が直撃する。
絶対に起きたくないが、起きるには十分な要因をもって渋々瞼を持ち上げた。のろりのろりと瞼が上がり、稍あって紫紺が覗く。
「んんんんん……」
「おはようございます、おとうさん」
「んー」
「ほら、こっちのおとうさんもおーきーてー」
無事一人目の任務を完了し、次は二人目へ。
隣で眠る二人目は、キラキラと光を浴びて輝きを増す美しい男だった。まるで石像か絵画の如く息を飲む美しさだ。金色の髪は光を浴びることで更に輝かんばかり。彫りの深い顔立ちは人間離れしていた。睫毛の一本一本が綺麗に曲線を描き、閉じられた薄い唇は目を離せなくなる。
なんてしったこっちゃない。なかなか起きない彼を同じように揺すり起こす。一人目よりもだいぶ時間要して、漸う重たい瞼を持ち上げ始めた。
「……………」
寝起きの声も出さず、しかし柳眉をおもいっきり顰める。
うっすらと片目を開け、視界に入れると隣の男を掻き抱いた。慌てるでもなく、されるがままその胸に飛び込む。
「おとうさん」
「ははっ。すまない。ちゃんと私が起こすから、マシュを頼む」
「……」
じと、と目だけを残して部屋を出た。
二人だけになった。まだ彼は夢の中だ。寝起きが相当悪いのでいつも起こすのは二人がかりだ。
顔を覗き込むと、美しい寝顔が目の前にあった。ちょっとだけどきりとして、隠すように身を起こした。
「ガウェイン。起きてくれ。もう朝だ。早く起きないと遅刻してしまうよ」
彼はちょっとだけ瞼を震わせ、寝息をたてる。
頭一つ分小さいわりには胸板があつく、筋肉もあって、彼の身体に触れるだけでドキドキする。それも今は彼の上に乗っているため、重くないかとヒヤヒヤしているのに素知らぬ顔で夢の中。ほぼ無意識に抱き寄せたのだろう。
その上、お互い素肌のままだった。彼の滑らかな肌も、起き上がっている分身も直に感じる。昨晩の名残がずくんと腹の奥で存在を告げる。
「ガウェイン。頼むから起きてくれないか。もしくは離してくれ。でないと私も遅刻してしまうよ」
起こしに来た息子と違い、とことん起こすのが苦手だった。こんなにも気持ちよく寝ているのに、美しい顔を起こしてしまうのはもったいない気がして。いつも心を鬼にするつもりで、けれど出来なくて弱々しくなる。
胸板に手を当てて揺する。
「ガウェイン。起きてくれ。ガウェイン」
ガウェイン。何度も名前を呼び、そのあつい胸板を揺する。昨晩の情事を思い出して少しだけ恥ずかしかったが、お腹を空かせて自分たちを待っていてくれているであろう二人を思い出す。
「ガウェイン。起きてくれ。ガウェ……っ」
何度目かで、突如唇を同じもので塞がれる。
息をする間も無く、下肢へするすると手が伸びた。そこを熟知している手は容易に後孔を探り当て、愛されたばかりのそこは期待に疼いた。
「ガウェッ、ま、まて!ギャラハッドたちが、ん、あっ」
制止など無いに等しく、あっさりといなされてしまった。
肉棒がひたりと押し付けられる。熱く硬いそれに、身震いした。性急な動きに声をあげるいとまもなかった。
先端が肉壁を分け入る。慣らされていないそこは、押しやろうとするが、熟知した動きに翻弄されて奥へと進めてしまう。
自身の先端からぽたぽたと愛液が溢れた。いつのまにかひっくり返された身体をよじり、シーツにしがみつく。
「っは…あっ」
「朝から可愛く起こしてくださってありがとうございます。ランスロット」
「ガウェインッ」
「ですが、残念です。もうちょっとだけギャラハッドとマシュには待ってもらわねばならないようです」
にっこり。美しい顔で笑ったかと思えば、半ばまで一気に押しやる。
「っ、はぁああっ」
「がんばって、早く終わらせてくださいね?ランスロット」
「まっ、あっ、あんっ。まて、あぁんっ」
奥には届かないくらい。半ばまで入ったそれを浅く律動させた。にっちにっちと肉と肉が擦れ合い、感じるところには触れていないはずなのに奥が熱かった。
止めようとした腕は捕まり、首の後ろへと回される。傷をつけてしまうから嫌なのに、彼は傷付けられるのが好きなようだ。
「ねぇ、早くしたいですか?それなら、下でヤります?」
「なっ」
「私はいいですよ。ねぇ。見てもらいましょうよ。ギャラハッドと、マシュに。あなたのこんなにいやらしい姿。きっととってもびっくりするでしょうね」
「ガウェインッ」
下腹を大きな手が撫ぜる。まだそこまでは入っていないはずで何も無いはず。それなのに、ずくん、ずくん、と蠢いている気がした。
恍惚と男が顔を歪ませる。
「いや?……でも、好きでしょう。あなた」
「ちがっ」
「うそつき」
「ひっ」
耳たぶを痛いほど食んで、ふっと笑う。
首筋をなぞり、頬を滑る舌。身体に熱を与えられているようだった。
「ほら、早くイきなさい。遅刻してしまいますよ」
「ん、ん、あっ」
少しだけ早めるが、達せなかった。
知っていた。それでは足りないのだと。半ばまで突かれるだけではイけない。
「おく、おく、ついて、おく」
「おや。いいんですか?奥まで入ったら出られませんよ」
「いいっ。いいから!」
とろやかに、笑う。甘く。
正解。そう言うように、唇が重ねられる。
触れ合ったところから溶けてしまいそうに、その唇に応えた。息も重なる口づけがひどく愛おしかった。
「ん、ふ、……っんんんん!」
奥。好きなところ。彼にはもう知られてしまっているそこまで入ってくる。入ってきて、出て行く。全部抜けてしまいそうなくらい。腰を押し付け追いかけると、叩き付けられた。
「ふ、ぁああんっ」
「ちゃんとキスして」
「ん、ふぁっ、あっ、ああっ」
「ヘタクソ」
唇に、噛み付かれる。キスなのに、噛み付かれるという方が正しいような、食われるようなキス。唇から食らって、全部喰らい尽くされそうだ。
必死にしがみついた。振り落とされてしまいそうだった。
中を穿つ肉棒は、どんどん早くなり、何も考えられなくなっていった。ただガウェインの余裕のない顔がひどく綺麗で、美しかった。
「ん、ん、んっ」
「さっさとイきなさい。一回で解放してやるわけないでしょう」
「え、あ、はぁあああんっ」
言葉の真意を訊ねようとした瞬間、一番深いところまで入ってきた。
耐え切れなかった肉棒からはぴゅるぴゅると白濁が飛んだ。一刹那、中にも叩き付けられるのを感じつつ意識を朦朧とさせる。
しかし、ずくんっと突くそれに引っ張られる。
「え、なんっ、あ、あんっ」
「バカですね。あなたが悪いんですよ」
「そん、ひぁっ、いま、いまだめっ。だめぇえっ」
ガウェインは、ひょいっとランスロットの下肢を抱えた。目を白黒させている間に、中に入ったまま歩き始める。
「ほら、下へ行きますよ」
「え、あ、だめっ。だめぇええ!だめっ。ひぃああっ」
「ギャラハッドとマシュが待っているんでしょう?あなたが言ったじゃないですか」
「あひっ、ま、まって。だめ。だめ。やめてくれっ、ひっ、ガウェっ」
無慈悲にもずんずんと進み、扉の前まで進む。
ダメだ。この扉を開けてしまったら。下にいる子供たちに聞こえてしまう。マシュはまだ小さいのに。ギャラハッドには任せろと言ったのに。子供たちの教育にもよくない。
どうにかしなければ。どうにかしてーー。
そのとき、ランスロットは思考が働いていなかった。
ガウェインは優しいがとことん意地悪な人だ。特に情事の最中はランスロットを苛めることに全力を注いでいるような人だ。だからこれも彼の意地悪で、本当はそんなことするはずがないのだと常ならばわかるはずだった。
だが、このときのランスロット頭が回らなかった。なんとかしなければならない。その一念だった。
と、後の彼は弁明する。
ランスロットはガウェインの肩を借りて、唇を押し付けた。下からの律動が止まると、涙やらなんやらの液体でぐちゃぐちゃの顔で懇願した。
「なんでもするから……っ。たのむから、子供たちの前でだけは、やめてくれ…っ」
勿論そんなつもりなどなかったガウェインは束の間目を瞠りかたまって、意地悪のつもりがとんだ可愛さの暴力で返されてしまって思考も吹っ飛んだ。
我にかえると、ランスロットの身体をひっくり返して扉に押し付けた。口を開かせる間も与えない。
「ひぃあぁっ」
「いいでしょう。今日は無断欠席なさい。そして辞めてしまいなさい。元々、あなたには家庭に入れと言っていたのに、あなたが続けたいと言うから許していたのです」
熱を孕んだ声が、耳元で囁く。必死に熱情を押しとどめたその声だけで、胎の中まで浸透しそうだった。
「ガウェイン」
「あなたはずっと私を受け入れていなさい。子供たちのことなんて気にもとめられないくらい、あなたをここから離してあげません」
下腹に触れる、手。
熱い。
熱に浮かされる手前の双眸が揺れた。
吐息が、火傷しそうだ。
「子供はもういりません。ああ、でも胎の膨れたあなたも大概魅力的ですが」
「ひっ」
「あなたをとられることだけは許せません。折角のあなたの子を流してしまうのも心が痛みます」
ゾッとした。この男は、一体何を言おうとしているのか。
恐ろしくて、ゾクゾクした。
「だから」
「んひぃっ」
「がんばって、孕まないようにしてくださいね」
「むり、んぁああっ!あひぃ、は、はひっ、なか、なかあちゅ、やぁっやだやだぁああっ」
優しい彼なんて何処かへ行ってしまった。荒々しい動きで、中を犯される。ぴったりと引っ付いて、逃げ場などなかった。
「ああぁあっ、もうやだぁあ、あちゅ、あちゅい、いやぁああっ」
「ほら、そんなことでは孕んでしまいますよっ」
「んひぃっ」
「はっ。叩かれて感じるなんて。そんな風に躾けた覚えはありませんが」
「あんっ。ごめ、ごめんなさっ。ゆるして、ゆる、あっあっ」
「ならちゃんと腰を振りなさい」
「はひっ、はひっ」
熱い。中が熱い。火傷している。絶対に。こんなに熱いのだ。茹って、溶かされて、もうどろどろに違いない。誰か助けて。たすけて。
「いい子。イっていいですよ」
「ん。んん、あ、あぁああ!あ、らめらめひぃいいんっ!うごかにゃ、ひぃああ、あちゅ、あちゅいよぉおおっ」
「きもちいいです、ランスロット」
「ひ、いっ……!」

「マシュ。美味しいですか?」
「はいっ」
ギャラハッドは、溜息を一つこぼした。
彼は知っている。あの独占欲の塊のような父が、部屋に防音をかけていることを。
そして、今この瞬間何をしているのかも知っている。
まったく。やっぱり自分が起こせばよかった。
高給取りな父のことだから、もう一人の父が職を失ったところで困らないし、むしろ願ったり叶ったりだろうが。職を失ったことで悩む姿を目の当たりにするこちらの気持ちも考えてほしい。
「にいさん、たべないのですか?」
「おいしいですよ、マシュ」
「はいっ」
よくもまあ、あの二人からこんなに可愛い妹が生まれたものだと神の采配に拍手と感謝を送りたくなる今日この頃だった。

     
return
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -