「ふぅ、あったかーい」
「おい、クソガキ。少しは遠慮しろ」
季節は、冬になった。
京の都よりずっと東に位置するここは、秋が遠のき始める前に途轍もない寒さが押し寄せる。
安倍家の三男坊は隣の小野家にあがるや否や、住人の許可もそこそこに炬燵へと直行した。これも幼馴染の特権だ。行儀が悪
いと祖父の用心棒にしかつめらしくくどくどと叱られてしまうだろうが、小野家の両親は不在のようだ。寒さのせいにして、見逃そう。
しかし、住人の一人である小野家次男はそれをよしとしなかった。玄関扉を開けるや否や中に入り込まれ、自分が入っていた場所に割り込んだ昌浩を足蹴にした。
「なにするんだよ」
一つ年嵩の幼馴染へ唇を尖らせると、眉間をぎゅっと詰めた顔が見下ろす。
「客人は客人らしくしずしずとあがれ」
「びっくりするくらい寒かったんだよ」
「知るか。退け」
「あっ、俺の場所なくなるじゃないか」
「昌浩、蜜柑食べる?」
「食べます!」
「筱」
甘やかすなと言外に窘める片割れへ、小野家長男は苦笑を零した。自分だってそう言いながら場所を空けてやっているのだ。素直じゃない弟へ言及するのはやめておいた。
篁は昌浩を押しのけてどっかりと真ん中に腰を落ち着け、行儀よく炬燵から手を出して蜜柑を剥き始めた。奥の昌浩は対照的に手は炬燵の
中だ。
冬真っ只中。家の中でも相当寒いのだ。外はとても寒かっただろう。
蜜柑も剥けず炬燵にとらわれている弟のような幼馴染からそっと視線を外し、液晶画面へと戻す。
「もうそんな時期かぁ」
液晶画面の人物へ、昌浩が答える。冬に入ったと雖も、気持ちはまだまだ今年だ。
昌浩へ頷きを入れる
と、他人へ厳しいことで有名な、しかし家族へは正反対に甘い弟が眉間を寄せて筱へ顔を向ける。
「おまえもそろそろ厚着をしろよ。すぐ身体を壊すんだから」
「はいはい」
「そうやっておまえは。厚着をしてるつもりなんだろうがな、俺らの何千倍も足りないんだからな。分かってるのか?」
「わかったわかった」
標的が自分へ向いたことに両手をあげ、降参を示すとぶつくさ文句を零す。
「おい、おまえもこの時期は気を付けろよ。そろそろ百鬼夜行があるからな。おまえみたいな見えるやつの中でも特に狙われやすいんだから」
「大丈夫だよ」
標的が戻ったことで、昌浩は苦いものを零す。
篁は厳しいのではない。心配性なのだ。当人たちが聞いたら絶対に違うと言うだろうが、昌浩もなんとなく分かっているはずだ。だから下手な否も告げない。
「篁もちゃんと着ろよ」
「分かってる」
少しだけ自分に似ているこの弟は、ひとには小うるさく言うくせに自分のことはとんと疎い。毎年油断して
ちゃっかり筱の風邪をもらうこともしばしばあるのだ。筱ほど重くはないので、本人もそのつもりはないのだろうが。
「そういえば、昌浩。おまえ今日はどうした」
「あっ」
勢い良く頭を上げ、両目をまんまるに開く。
次いで、「晩ごはん出来たから呼んでおいでって言われてたんだった」というお隣の
三男坊の声から数瞬あって、弟の怒鳴り声が響いた。
「早く言えーっ!」
もっともだったので、庇うのはやめておいた。

慌てて準備をして訪った安倍家で、何があったの?と細君が目を丸くしていた。どうやら怒鳴り声が聞こえていたらしく、ゆっくりしていてもよかったのにと微笑まれた。

筱と篁と昌浩



     
return
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -