「長谷部くん」
「? なんだ」
「今日の夜、いいかな?」
「ッ! 戦の前に言うなうつけ者!」
「ごめんごめん。怒らないでよ」
「まったく…」
 呆れを口にしながらも、真実その顔は赤らんでいる。満更でもない様子だ。まったく素直じゃない。顔に全部出ているというのに少しは見習ったらどうだろう。
 遠目にその場を後にしようとすると、後ろから肩を叩かれる。
「よっ。驚いたか?」
「……」
「おいおい無視か?そりゃないぜ」
 うるさい。
 馴れ合う気はないと宣言しているというのに、このツルどころかサギな男は肩を竦めてみせた。
 見た目とは裏腹に驚きばかり求めるサギの手を払い踵を返す。
「いいのか」
 問いに、答えはない。
「辛くはないのか?」
「……約束したからな」
 素直に捕まってやることにして、吐息を漏らした。
 反芻する男へ、今なお記憶に焼きつけている情景が燃ゆる。

 ――待っているよ

「それに、あれはアイツじゃない」
「伽羅」
 ずっと待っているから。だから、来てね。ずっとずっと待っているよ。君だけを、いつまでも。
 小指も交わせなかった男と異なり、アレが選んだのは叔父のような男だった。懐かしい知己だと笑い、別な男を瞳に宿した。だから、違うと思った。それだけだ。
「おまえと同じだ」
「っ、」
 息を飲む音が聞こえ、驚きを与えられたことに満足してその場を後にした。
「今のは、反則だろう……」
 あの男が居ぬ間に掻っ攫ってやろうと思ったのに、それを見抜かれた挙句その想いはかなわないと宣言されてしまった。よもや先手を打たれるとは。
 どうやら侮っていたらしい。
 男は天を仰ぎ、暫く身動きできなかった。

 ――君には渡さないよ

 あの男の呪縛が、絡みついているような気がした。

燭へし(2振り目)
くりみつ(1振り目)
くり←鶴




     
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