「やあ!」
その男は突然に、まるで冬の始まりのように突然に現れた。

「だ、誰だテメー」
実に晴れやかないい笑顔で、軽快に、そしてフレンドリーに話しかけてくる男にまったく見覚えはなかった。知り合いでもない。
肩に置かれた手から何かがぞっと伝わってくる。
「あれ?もう忘れちゃったのかな」
男は柳眉を下げた。けれど、口元に浮かんだ笑みは気持ち悪いほど
残ったままだった。
「あんなに激しく拳を交わし合ったのに」
言うが早いか、横から突如現れた拳ーー否、膝は視界から一瞬で消え、鉄石のようなかたい衝撃が顔面へとぶつかった。それが男の膝だと気付いたのは華麗に地へと着く足の動きが目に入ったからだった。
「やあ、修造!」
男は、アメリカナイズに洗練されたフレンドリーな挨拶を向けた。
「よっ」
アヒル口が特徴的な男は、対照的に軽い挨拶を返す。
そして、視線を下ろすと足元には既に満身創痍のデカブツ。見覚えはこれっぽっちもないはずだが、多分あるだろうもの。
「んで…アンタが」
聞き覚えのある声に、確信がつく。
アヒル口を大きく開いて息をついた。
「よう、灰崎。ハデにやってるみてーだな」
「アンタに言われたくねーよ」
盗んだバイクで走り出したり、兎に角自分なんて比ではないやんちゃというやんちゃを中学でやりきってしまった男には。
「で、今日はどうした」
この生意気な後輩の考えていることなどお見通しだ。早速頭に拳を押し付けてやる。「あだだだだっ」と、喧しい。
「修造の知り合いみたいだから、許可貰おうと思って」
「コイツボコる?いいぞ、もっとやれ。そんくらいしねーとコイツバカだからなおらねーから」
寧ろやってもなおらなかったと、中学時代を振り返る。挙句、強制退部になんてなるのだから手に負えないというものだ。
「まあ、それもだけど」
「はぁっ?おい、ちょっとまあででででで」
「テメーは黙ってろ」
余計な野次を消して、男と対峙する。僅かな時間を共にしたこの男は、なにかといえば
残された後輩は頭上で交わされた会話に目を白黒させ、稍あって、ぎこちない動作で男を顧みる。
「ん?」
「……」
もしや自分はとんでもないやつに売られたのではないだろうか。
中学時代に散々拳を受けて、これ以上恐ろしいものはないと思っていたが、久方ぶりに肩を震わせた。
突拍子もないことで驚かせるものだ。
男は後輩の首をガッチリとホールドした。
「俺の物、だから」
「……」
「いいね?」
「……へえへえ」
「ありがとう!」
牽制までかけておいとは、胸の内に秘める。
「そんだけな俺帰るわ」
「ああ!ありがとう、修造」
ひらと手を振って、別れを告げた


氷灰+虹



     
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