Please, Travel for you
「なぁダイキ」
バリバリと、男は言った。
「あ?」
どこかのお菓子星人かよ。
そう言わなかった自分を褒めたくなるくらいには、食い散らかされたポテチの残骸。その周辺にはカスが散らかっている。普段は口酸っぱくああしろこうしろだのうるさいくせにこういうところがだらしないのだ。
「オレたちいつ結婚すんの?」
「はぁ?しねーよ」
「へえ」
バリバリと、男はまだ口にイモを咥えている。テメーそんな油ぽい唇にキスなんてしねーからな。後でしたいとか言ってもぜってーしねーからな。
目線はテレビへと注がれていた。「イマドキ女子の結婚」について特集していた。最近人気沸騰中だというバカアイドルがキャピキャピと可愛さを作って、「結婚したいですぅ」だなんて芸人にしなだれかかっていた。ありゃだめだな、胸が小さい。
男の意識は既にテレビへと持って行かれており、今しがた自分で訊ねたことすら忘れているだろう。もののついでだろう。
結婚?
心の内で問う。
バカ言え。
家事は出来る。だが散らかす。顔は悪くない。中身は最悪。バスケをする。だがオレほどじゃねー。
同棲して何年も経つ。その間愛を囁き合う、だなんてことはしなかった。浮気をすることもなかったが。コイツにしてはめずらしく。
そんなオレたちが? 結婚?
同性婚だなんだとあるのは知っている。が、興味はなかった。オレもコイツも話題にも上らせることはなかった。どこぞのバカ犬は嬉々として婚姻届を取りに行っていたが、バカかと二人して尻を蹴っ飛ばしていたくらいだ。
正直な話、結婚をしてしまったら終わりだと思っている。
もちろん、オレたちは恋人同士である。そういう関係だと認識もしている。
けれど、違うのだ。結婚というその二文字は違う。
ふうふという関係を結び、家庭を築き、円満仲良く年老いていく。ゆくゆくは手を繋いで公園を歩いたり。
そんな関係がコイツとは想像が出来なかった。離れがたく、側にありたい。
子どもは無論出来るはずもないがそういうことではない。
「あ?ダイキ?」
「……」
「ダーイーキー」
「……」
うるせえ、黙ってろ。
まだ知らぬ感情を持て余した。
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