「よし、じゃあ切るか」
 事も無げに言ってのけた彼に、
「ま、待ってぇええええええ!」
 俺は、全力でストップをかけた。







 春。
 新しい生活が始まり、気持ちも浮つく時節。
 俺は、新生活に追われながら、その多忙さと新鮮さに魅力めいたものを感じている時期だった。
 念願の第一志望校に受かり、すっかり気が抜けたということも一因である。
 そして、何より恋人との新生活だ。
 まだ付き合い始めて長くない恋人は、まだ高校生である。都内の大学に入ったと雖も、生活サークルは違う。
 しかし、今はまだそれがスパイスになっている。
 そう思っていた矢先の出来事である。
 俺は、恋人の相棒に呼び出され、比較的母校に近い都内某所の有名ハンバーガーチェーン店に足を踏み入れた。
 相棒は相変わらずむすっとした顔で、俺を出迎えた。
かと思えば、第一声に勇ましくも「もううんざりなのだよ!」と叫んだ。
 取り敢えず理由を聞くと、恋人がそれはそれは寂しがっているらしい。
 メッセージアプリや通話で連絡をとっているが、かけらもそんな感じは見受けられなかったから驚くしかない。しかし、よくよく話を聞くと、なるほどと頷かざるをえなかった。
 そもそも、常日頃は明るく、協調性があり、表情豊かでフランクに接することが出来る極めて稀な人種である。この協調性の欠けたワガママぼうやがあそこまで受け入れられることが出来たのも、恋人のお陰であったといっても過言ではないだろう。
 しかしその実、恋人関係となってからよく分かったことだが、心の奥底を許したニンゲンには甘えたで、寂しがりで、協調性などかけらもない。ちっとも人付き合いに向いていないのである。
大学生活に浮かれるあまり、それを失念していたことを今更ながらに後悔した。そういえば、最近顔も合わせていない。
 自分の方が融通はきくし、学生生活に追われてきりきり舞い、というわけではない。
 会おうと思えば会える。
 会いたいかどうかだ。
 俺は即座に恋人を呼び出し、なんとか口を割らせることに成功する。
 不安や寂しさ、それを感じてしまう葛藤を全部吐かせ、自分の拙さに辟易するばかりだった。
 更に、大学で世界が広まることによって俺が心変わりをし、捨てられるかもしれない、というのが一番の懸念だった。最近連絡がとれず、顔も合わせなかったのが一因である。
 俺は、痛感した。
 ネガティヴ思考になるまで恋人を追いつめてしまったこと。
 そして、恋人に心変わりをされるかもしれないと思われていること。
 だから、言ったのだ。
「俺はお前以外抱かねえ。女も、男も。それを証明してやる」
「……へ?」
「よし、じゃあ切るか」








 それが、何を示しているのか。
 敏い彼には明らかだった。
「ま、待ってぇええええええ!」
 不安やらなんやらがふっとんだ。
 切る。
 何を?
「だって不安にさせるくらいならいらねーだろ」
「いや、ちょ、待て待て待て」
「待たない。お前にはもう突っ込んでやれないから悪いし、俺も相棒がいなくなって悲しくないわけじゃないが、相棒より恋人だ」
 キリッと、恋人は言う。
 あれ? 選ばれたのになんだか嬉しくない。っていうか相棒ってもっと言葉があっただろう! ジュニアとか。
 しかし、彼は混乱していた。
「待って。俺も寂しい。宮地さんの相棒に突っ込まれたい! 俺を選ぶなら相棒と一緒じゃなきゃ嫌ァアアアッ!」
 だから、この世の終わりのような顔で、至極アホなセリフを言っても仕方ないことだと思う。
 仮令、それを、自分の相棒に見られていたとしても。
 仮令、それが、某有名ハンバーガーチェーン店で行われている喜劇だとしても。
 そう。彼は大真面目だった。後から思い出して、穴を本当に掘って埋まろうとするくらいには、この時大真面目だった。
 恋人は彼の必死の哀願にううむと唸り、そして必死の説得の末に漸くチョキンだけは免れたのである。
「ちゃんとお前も寂しいとか全部ぶつけろよ」
 と、男前な言葉と共に。






 後日、何処から聞きつけたのか、某有名PG様から「ハサミ貸そうか?」とメッセージが来ることになるとは、彼は知る由もない。
「待ってやめて切らないでぇえええ
     
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