もしも火神が桐皇で、青峰が誠凛だったら。
「あお、みねくん……?」
「テツ…」
 それは、ある青い空の日のこと。






 桜並木を抜け、彼――黒子テツヤは部活勧誘の猛者どもを潜り抜けた。途中、バスケ部の勧誘もあったが見事なまでに気付かれず、目の前に座っても気付かれなかったので、入部届を拝借して必要事項を記入し、置いてきた。
 そして、彼の後に、
「すみませーん。バスケ部ってここですよねぇ?」
「ええ、そうよ」
「あの、代わりに書いちゃっていいですか? あと、私もマネージャーとして入りたいんですけど」
「歓迎するわ!」
 彼のよく知る桃色の髪を靡かせた少女が訪れた。
 少女は同じ用紙に記入し、にっこりと差し出した。
「はい。……って、青峰っ?」
「はい。幼馴染なんです」
「どうしてここに……」
「それは……ナイショです」
 少女は先輩達を驚かせると、可愛らしい顔立ちに陰を作った。
 喚き立つ彼らを置いて、去っていく。
「って、ここにも帝光中っ? いつの間に!」
「え、うっそ」
「あああああ気付かなかったぁあああ!」
 それは、桜の咲く、よく晴れた青い空の日のこと。






「はい、一年生は並んで!」
 一列に並んだ一年生と共に、黒子も倣った。だが、やはり気付かれなかった。
 監督と言われた一学年上の先輩の目の前に立ち、未だ自分を探し続ける彼女に存在を主張する。
「あの、黒子は僕です」
「う、うわぁあああああ!」
 すっかり見慣れた展開に、彼は表情を変えることもなく。そのまま観察を受ける。どう見ても数値が低い、という難しい顔をされたが気に留めることはなかった。
 だが、続く声に彼は表情を一変させた。
「もう! 青峰くんってば! 今日から練習だって言ったでしょ!」
「っるせえな。めんどくせーんだよ」
 体育館がざわめきを来す。
 桃色の髪の少女に連れて来られたのは、青い髪、青い瞳。黒人かと見紛うほどの黒い肌と、強靭は体躯。
「あお、みねくん……?」
「テツ…」
 変わってしまった、目の色。
 嘗て相棒と呼んだ人は、情熱さえも捨ててしまい、見る影もなくなっていた。
「テツ、くん…?」
 彼の隣で、可憐な少女が双眸を瞠る。震える眼は今にも泣き出しそうで、逸らすことも出来ずに見つめ返す他ない。
 クツクツと、声が響く。
「んだよ、テツ。お前、バスケやめたんじゃなかったのかよ」
「はい。そのつもりでした」
「へぇ?」
「青峰君達を倒したかったんですが…」
「ハッ。本気で言ってんのか? お前に俺が倒せるワケねーだろ」
 青峰は、口角を上げた。
「俺に勝てるのは、俺だけだ」
 すっかり染み付いてしまった台詞は、黒子の胸に冷たい風を送り込んだ。
 桃井が俯くのを視界の端で捕えたが、どうしてやることも出来ない。
「青峰君ね。私は監督の相田リコよ」
 重い空気に、勇敢にも前に出たのは女監督だった。
 青峰は一瞥し、瞬時に眉尻を下げた。
「んだよ。おっぱいちっちぇな。女つーから期待したってのによ」
「………」
「ヒィイイイイイイイッ!」
 二年の顔色が蒼白になる。
 相田は、笑顔のままだった。しかし、纏う空気が途轍もなく恐ろしいものへと変化している。
 ヤバい。アイツ、地雷踏みやがった! やりやがった!
 部員の心が一つになった時、漸う相田は口を開いた。
「小金井君」
「は、はいいいい!」
 差し出した手に乗せられたのは、ハリセン。
 ツカツカと歩み寄ると、思い切り振りかぶり、
「うっさいんじゃボケェ!」
「いっでええ!」
 ぶっ叩いた。
「ガタガタぬかすな! いいから黙って脱げ!」
「ハァ?」
「桃井さん?」
「は、はい! ほら、青峰くん!」
「おい! さつき、テメェ!」
 呆気にとられていた桃井により上半身を晒すことになった青峰だったが、相田はその肉体に感嘆を漏らすばかりだった。筋肉、バランス、などなど。全ての数値が高いのだ。おまけに、まだまだ伸びしろがある。
 まだこんな身体が世の中にあったのか。
「おい、まだかよ」
「え、ええ。いいわよ」
「んじゃ、俺帰る」
「ええっ。青峰くん?」
「今日マイちゃんの出る雑誌の発売日なんだよ」
「ちょ、青峰くん!」
 慌てて追いかける桃井と、さっさと出て行く青峰。
 まるで、嵐の後の静けさである。
 残された部員達は暫くその場から動くことも出来なかった。
 嘗ての相棒ただ一人を除いて。
 後日、一年生対二年生による試合が行われた。しかし、例の如くサボっていた青峰が途中出場したことにより、彼の独壇場となったのである。

     
return
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -