strawberry kitty
「バロン。はいっ、あーん」
 こちらを一瞥たりともせず、小さく口を開けるカミュ。いちごをまるまる放り込むと、物音を立てず咀嚼する。
 休日の昼。外は晴れており、優しい風が吹いていた。
 頬を通り過ぎる風は、宛ら親しげに挨拶をして手を振る妖精か。
「はい、あーん」
 次を放り込む。
 太陽の光の当たらない明るいテラス。解放感に溢れ、光などなくても十分だった。
 カミュは読書に勤しみ、レンはその隣で只管イチゴを放り込むことに勤しんでいた。
傍から見ればなんの冗談かと思うだろう。
一方は見向きもせず本を読み、他方はイチゴを手ずから食べさせる。剰え、食べさせてもらっているというのに感謝もおいしいという言葉すらもない。
しかし、レンは口元に笑みすら浮かべていた。
カミュの口に放り込み、カミュが咀嚼し、読書するのを眺めていた。食べ終われば、その口にまた新たなイチゴを放ってやる。食べ終わったら次、また次、と。
「バロン。あーん」
 最後の一つを放って、レンは満足げに一息つく。
 そして、イチゴを盛った皿を持って席を立つ。この間、カミュはやはり一瞥たりともしなかった。
 もしこの場にカミュの後輩の猫がいたならば、酷いと喚き散らすだろう。鬼だの悪魔だの罵って怒りを買ったに違いない。
 だが、ここにいるのはレンだけだった。レンとカミュ。それ以外には誰もいない。二人きりだ。
 レンは皿を洗い、紅茶のおかわりを淹れてやった。ちょうどティーポットの中は空になっており、ついでに砂糖も足す。
 カミュの隣に腰掛けると、じっと眺める。
 カミュが読み終えるまで飽きもせず。
 ぱたん。と、本を閉じる音とともに、嘆息が零れる。
「レン。視線が騒々しい」
「俺の愛を感じた?」
「今更だろう」
「ふふ」
 本を置き、カミュはやっとレンを映した。アイスブルーに射抜かれ、胸が高鳴った。
「来い」
 氷の手が、許した。
 レンは飛びつき、首に腕を回す。
「寂しかったか?」
「うん。とっても」
「甘えたがりだな」
「とぼけちゃって」
 そう。カミュは知っている。レンのことならなんでも。
 知った上で、レンの視線も行為も素知らぬふりをして見せるのだ。表情一つ変えない。
 首筋に鼻を押し付け、すんすんと嗅ぐ。レンの好きなにおいがいっぱいに広がって、待ちかねたものにあるはずのない尻尾が揺れそうだった。
 カミュはされるがまま、レンの後頭部を撫でる。
 オレンジの長髪が指の隙間を通って、さらりと流れていく。偶に絡まって、解け、すり抜ける。
「バロン」
「なんだ」
「かまって」
「かまってやっているだろう」
「ふふ。本当にバロンはイジワルが上手だ」
「お前の好みに合わせてやってるのだ。感謝しろ」
「うん。大好き」
 腕の力が強まる。
 本当に、この猫は。
 愛情表現過多で、窒息するんじゃないだろうか。
「バロン」
「どうした」
「かまって。えっちに、ね」
 誘うような声と視線が、カミュを貫く。首筋にかかる吐息がぞくりと肌を粟立てた。
「ワガママな猫だな」
 カミュは口角を上げ、猫を抱き上げた。











「ふっ、う」
 鳴き声が、押し殺される。
「どうした。猫なら猫らしく、かまってもらえたんだから喜べ」
「んんっ」
 ふるふると、横に振られる首。
 仕方ない。心の内で呟きながらも、笑う。
 指を入れると、肉襞がカミュを出迎えた。彼の好きな「情熱」を帯びた濃い赤じみた、桃色と言うには赤い場所が、狭苦しい中に入ってきた侵入者をぎゅうぎゅう締め付けた。
「レン」
 少し、また少しと奥へ進めると、違和感を覚えた中が押し戻そうと抵抗を試み始める。中は少し水分で濡れていて、奥へ進むほどにそれは多くなった。
「レン」
 一際声を甘くしてやると、潤んだ眼が救いを求めた。
 分かっているだろうに。助けてなどしてやらないことなど。
 奥の方で未だ形を持っていたそれを感知すると、捕える。だいぶ小さくなったそれは温かくなっていた。
「レン」
 目に、安堵が浮かぶ。
 カミュは、ふっと微笑んだ。
 一刹那、
「ああっ」
 カミュは指で捕えたそれを、奥へ突っ込んだ。
 掌で押し殺されていた声が解放される。
「声が漏れているぞ」
 空いている指で塞ぐ。しかし、いやいやと首を振るので、奥に未だいる指を押し付けてやった。
「ワガママだな。声を出したくないというから手伝ってやったのだろう?」
「んぶっ、う、ん!」
 指の動きに翻弄され、ろくに息も出来ない声が悲鳴をあげる。鼻で息をすることもままならず、押し付けられる指先のものに翻弄されていた。
 押し潰し、とうとう形を保てなくなったそれを放って指を抜く。
 指先には、赤い雫が滴っている。舌先で掬うと、温かくなった甘酸っぱい味が口の中に広がった。
「あ…」
 やっと解放されたレンは、視線を外すことも出来ずにいた。
味わうように指を舐っている舌の動き。レンを愛し、意地悪を施すものが、レンの目を愛する。
レンの身体には触れていない。それなのに、身体の中から愛されているような感じが襲い、火照った身体が熱を高めた。
「たまにはいいものだな。温かいものも」
 カミュはレンの手を取り、手の甲に口づけた。
「貴様の手からなら、悪くない」
「…っ」
 手ずから食べさせた光景が甦る。
 顔を赤らめたレンを、ふっと嘲笑うように笑い、解れたそこへ猛った欲望を押し付けた。
「だが」
 押し付けられた欲望に、レンは胸の鼓動を必死に抑えた。
 入ってくる。反り返ったものが、レンの中に今にも入ろうとしてくる。
 早く。早く、入れて。
 心は、裂かれるのを待っていた。
「レン」
 しかし、カミュは笑った。レンに覆い被さるカミュの顔が目前にあった。
「だが、貴様、一人で食べ過ぎではないか?」
「え…」
 そんなことはない。
 言おうとした矢先に、カミュは口角を上げた。
「俺にも食わせろ」
「どういう…っあ!」
 意味を問うか否か、待ち焦がれた熱塊が小さ綻んだ肉襞を押し破る。
 慣れたはずの感覚に、しかしレンは息もまともに紡げない。懸命に、意識して息をする。
「食べただろう」
 きつい締め付けの中、カミュは断言した。
 食べてない。全部あげた。と、レンは反駁も出来ない。
 あと少しで奥に届くというところで、ぴたりと止まる。
 そして、
「ここで、たくさん。食べただろう?」
「っ」
 漸く意味を察し、息を詰めると、カミュは奥を穿った。
 レンの中をカミュの熱が占める。もう入らない、狭苦しい中に、無理矢理こじ開けて居場所を作っている。
 身体すらもカミュを愛してしまっていて、従順にも居場所を作っていた。徐々に馴染み、広がっていくような感覚だった。
 次第に息も整っていき、身体が作り変えられていくのが分かった。
「これは、ダメだな」
 ぽつりと、カミュは零した。
 肩に押し付けていた顔を上げ、視線を合わせる。
 やはり、あの意地の悪い顔で笑っていた。
 それすらもレンの胸をときめかせる。一種の魔法だ。
「甘すぎて、ダメだ」
 中のものが抜かれる。
 彼のために空けた空間が狭まっていく。
 途中まで抜かれたかと思うと、一息に戻ってくる。彼を追いかけようとしていた中が驚愕する。
「あああっ」
 カミュはレンを背中から抱き、熱を押し付けた。先程よりも奥へと侵入した熱が中をこじ開ける。
「あぁんっ、ばろ、バロンッ」
 奥をこじ開ける傍若無人な侵入者の居場所を作ろうとしているのに、熱塊は中を蹴散らして勝手に作ってしまう。整理整頓などする間もない。
「ばろん、ばろん…っ。奥、奥は、あついから、あついからぁ!」
「貴様が勝手にしていることだろう」
「あっ、ばろんっ。ばろん、んんぁああ! ぎゅうぎゅうしないでっ」
「しているのは貴様だ」
 押し付けられる熱塊。
 ゆっくりしてほしいのに、カミュはレンの意見など聞いてくれやしなかった。
食い荒らしていく熱に戻れなくなる。
「旨いぞ、レン。お前も、イチゴも」
「っ、だ、だめ。ばろん、中、つぶれ、はぁぁあんっ」
「どうした? 喜べ。かまってやっているのだからな」
「ごめんなさっ」
「謝ることなどない。但し…」
 もう空ける場所などないのに、まだそこに空ける場所があるとでも言うように、熱は奥を穿った。レンの悲鳴を掻き消し、水音が響く。
「但し、そう簡単に放してなどやらん」
「ひっ、ひぁあああああっ」
 息が、止まる。
 妙な解放感と、一気に訪れた疲労感に押し潰されながら、レンは瞼をとろとろと下ろした。
 未だ解放されぬことを確かに感じながら。

     
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