光家の朝は忙しく、騒がしい。
「はいは〜い、みんな起きてー!」
 長男嶺二。一家を支える大黒柱。両親を早くに亡くした彼らを高校卒業してすぐに社会に出て、育てた兄弟の父親のような存在である。
「ん…兄貴……はよ」
 寝ぼけ眼を擦るのは、次男の翔。嶺二の猛反対を押し切り、高校卒業を待つことなく社会に出て一家を支える一人。元々勉強は性に合っていなかったため後悔はない。
「はい、おはよ。トッキーが朝ご飯作ってくれてるから早く下りておいで!」
「ん」
 次に嶺二が向かったのは、比較的起こすのが楽な末弟の部屋。
「アイアーイ! おっはよーん! って、もう起きてるっ?」
「兄さん、おはよう」
「うぇーん。レイちゃん出番なくてさびすいぃー!」
「意味が分からないんだけど」
 末っ子の藍。兄弟の中で一番落ち着き払っており少々…否、かなり可愛げがない。上の兄弟はすぐ上の兄二人に可愛げやらなんやらを奪われたのだと言うほど。
「もうすぐ下りるから、兄さん達起こして来たら?」
「はい……」
 僕はいいから、と淡々とした口調で言われてしまえば大人しく従う他ない。嶺二はしょんぼりと肩を落として藍の部屋を後にした。
 次に向かったのは、まだ可愛げのある弟の部屋。
「おっとやーん! おーきーて! お兄ちゃんが起こしに来てあげたよー!」
「んんー」
「ぷっぷっぷー。もう! 可愛いんだからぁ!」
 五男音也。天真爛漫で、兄弟の中で可愛さは一番と言っても過言ではない。ただ少し頭の中身が残念であるだけだ。そこが玉に瑕なのだが、クラスでも人気者なのであまり心配はしていない。なんだかんだ誰かに助けられ、誰かを助けつつ生きて行ける。
「おーとーや!」
「わぁっ!」
 耳に息を吹きかけられ、音也は飛び起きた。
「もう! 兄ちゃん、もっとフツーに起こしてよ!」
「おとやんが起きなかったんだもーん!」
「えっ、ホント?」
「ホントホント! 嶺二お兄さんが嘘つくはずないでしょ!」
「うわぁーゴメン!」
「いーよいーよ!」
 早く下りておいで、と言い残し、嶺二は次なるミッションへ向かった。
 と、その前に、
「セッシーもちゃんと起こしてね!」
 下から二番目の弟セシルのことを任せて、音也が布団の中に潜りこんでいたことに気付くのを見届けた。
藍のすぐ上の兄セシルは殊更音也に懐いており、こうして夜にいつの間にか潜りこんでいることが多い。猫のように丸くなって、ぴったりと自然にくっついているものだから鈍感な音也は気付かないのだ。
ここまでは、まだ比較的マシな方である。いや、良心的とすら言えるだろう――残り四人と比べたら。
嶺二は気合いを入れ、その中でもまだある意味ではめんどくさい、否、少々変わった弟の部屋へ向かう。
 部屋の奥。ベッドの中からはみ出す肢体。健康的な男児の身体は、しかしよくよく見れば一糸纏わぬありのままの姿で。
 よもやこの年になってまで弟の裸体を見ることになるとは思いもしなかった嶺二は大仰に溜息をついた。
 ベッドの端に腰掛けると、すっかり逞しくなってしまった身体を揺さぶる。
「レンレーン。起きて―。朝だよー」
 朝から弟の裸なんて見せられたからか、若干声に色がない。
 四男レンは艶めいた声をあげ寝返りをうち、そして枕に顔を埋める。まるで神に愛されたかのような美しい顔立ちと、漂う男くささ、滲む色めいた雰囲気が混じり合い、この世のものとは思えない。
 が、もう二十何年も見慣れてきた男の顔。嶺二はすっかり見飽きてしまっている。
「レーン、起きなさーい」
「んー…」
 レンの寝起きは兄弟の中でもあまり良い方ではない。眉が寄り、朝を拒む。
「レンーおーきろー!」
 とうとう我慢ならず、布団を引っぺがす。
 完成された男の体が寒さに震え、丸くなった。
 コイツ、まだ起きないのか。しぶといな。
 感心と呆れが半々、嶺二は最早白い目を受けていた。
キャンパスでは多くの女性を魅了しているようだが、家の中ではこのありさまだ。はたして結婚し、家庭を持てるのか。嶺二は兄として大分不安である。
「レンー!」
「んー……なぁに?」
 ようやっと起きたかと思えば、掠れた声が色を含んでいた。そこに不機嫌さも含まれているが、宛ら女性に起こされていると錯覚でもされているようだった。
 弟なぞにそんな猫なで声をされたことに一瞬悪寒が走る。
「起きなさい」
「あー……………んー………」
「こら、寝るなー!」
「んー……大丈夫。今日は眠いから」
「何が大丈夫なの? 全然大丈夫じゃないから! さあ、起きる!」
「んー」
 無理矢理叩き起こし、さっさと下りてくるように言って、嶺二は部屋を後にした。
「さて、と……」
 実は、ここまではまだまだマシなのだ。
 レンは寝起きは悪いが、当たることはない。当たってくるのは、この後だ。
 一つ深呼吸をして、隣の部屋に入る。
「らんちゃーん! 起きてー!」
 六男蘭丸。性格は男前、ロックを愛するバカだ。学校でも気の合う友人がいるようで、あまり心配してない。
 ただ、寝起きが悪いことを除けば。
「ん…」
 寝返りを打ち、不機嫌を露わに眉間に皺を寄せる。
「らんらーん! お!き!て!」
「……っせぇ」
「うるさいじゃないよ! 起きる! 学校遅刻しちゃうよ!」
 蘭丸は唸りながら、夢現の中、意地でも起きようとしない。レンと違い、機嫌が悪くなるタイプだからめんどくさいのだ。レンはあの素っ裸さえどうにかしてくれればまだマシなのだが、どうしてか、育て方を間違えたのか、裸で眠るようになってしまった。兄は悲しい。
 時計の針はもうそろそろ危ない。嶺二は一つ息をつき、耳元に口を寄せた。
 そして、
「おっきろー!」
 叫んだ。
「っるせー!」
 耳元で叫ばれた本人は飛び起き、怒りを露わに布団を蹴飛ばした。
「はい、じゃーね!」
「じゃーね、じゃねーよ!」
「起きないのが悪いんでしょ。ボクちんちゃんと起こしたもん。ランランが起きなかったんだもん!」
「ハァッ? あめーんだよ!」
「もう。ほんっと可愛くない!」
 嶺二はプンスカ怒って、更に隣の部屋へ行く。
 そこは、蘭丸のすぐ下の弟カミュが眠る部屋だ。
 部屋の中は、同じ家の中なのかというほど広々としており、奥には豪奢な何処で勝ったのか訊きたくなるような天蓋つきベッド。調度品も洗練されたもので、一体どこぞの伯爵様なんだと毎度呆れる。
「ミューちゃん、起きて起きて。朝だよー」
 だが、この何処ぞの伯爵様。すぐ上の兄と同じように寝起きは悪かった。
 清々しい朝を迎え、早朝飼い犬のアレキサンダーと散歩でもしていそうな雰囲気はあるが、残念ながら我が家にペットはいない。どころか、朝は常に眉間に皺を寄せていて目が覚めない。
「ミューちゃん。カミュ。ほら、起きなさい」
「……みん」
「誰が愚民だ」
 一家を支えてきた兄に向かってなんだる言い草。腹立たしいことこの上ないが、親切にも起こしてやる。
「ほら、起きなさい。ミュー。カミュ。起きろー」
 起きない。
 嶺二は溜息をついた。毎朝起こす方の身にもなってほしいものだ。
「おやつ抜き」
「なんだと?」
「あ、おはよ!」
「おい、今なんと言った?」
「はい、じゃ下りておいでー」
「おい!」
「下りてこないとマジで甘味抜き」
「なん、だと…っ?」
 ショックで固まっている間にとんずらした。
 嶺二は息を大きく吐く。
 ここまでは、まだ許容範囲だ。可愛くはないが。
 だが、次は最難関が待ち受けている。兄弟の中でも比較的温厚で、たまにデスクッキングをすることを除けば、可愛い弟だ。
 しかし、寝起きだけは違う。嶺二はこの時間だけは出来るだけ関わり合いになりたくなかった。
 だが、朝食を作ってくれている弟達に任せるのも酷だし、翔がたまに変わってくれるが、嶺二と違って高校中退で社会に出たために苦労が多いからムリをさせたくない。
 よって、他の寝起きの悪い弟達ではなく長男である嶺二が引き受けているのだが、
「……あ?」
「……はぁ」
 カッと開かれた目に、毎度のことながら溜息をついた。
 下から三番目の弟那月。先にも説明したとおり、穏やかで可愛いものが大好きで怪力であることを除けば扱いにくさはあるものの蘭丸やカミュに比べれば可愛いものだ。
 だが、この寝起きの時間だけは別だった。
「んだコラ……」
 幼少期のトラウマから、那月は眼鏡を外している時だけ別人格になる。
 つまり、寝起きの眼鏡をつけていない状態は絶好の入れ替わり時である。
「さっちゃん、いい加減お兄ちゃんにガンとばすのやめてよ……」
「るせえ…」
 名を、砂月。那月とは正反対のキレやすく、短気で、一回自分の世界に入るとそれを壊されることを極端に嫌う性格だ。
「もういーや。準備して下りておいでー」
 可愛がってきた弟に睨まれるのは精神がすりつぶされる感じだった。
 嶺二は部屋を後にし、一回に下りる。
「テメーカミュ! 俺が先だったろうが!」
「ハッ、愚民が。身の程も弁えず、俺の前を歩くな」
「………」
 途中、上からいつもの言い争いが聞こえてきた。
 兄弟を起こしに行くだけですっかりくたくたになってしまった。
「兄さん、ありがとうございました」
「まーさやーん」
「兄さん、もう出来ていますから早く座ってください」
「トッキーぃ」
 八男真斗と三男トキヤ。比較的器用なトキヤと家事全般が得意な真斗は忙しい兄達に変わって朝食係を引き受けてくれている。夜はトキヤも仕事があるため、代わりに蘭丸が台所に立つことが多い。
 海千山千の猛者を起こしてきた後に二人の素直な可愛さが染みて、思わず抱き寄せる。トキヤは恥ずかしがって照れ隠しを口にしたが、今はそれすらもまだ可愛い方だと思えるから重傷だ。
「はぁ…二人が可愛い」
 まったく面倒な弟達を持ってしまったものだ。汗水流して働いて、一家を支える兄をちっとも労りもしない。
 けれど、それでも、弟が可愛いのだから相当自分も大概なのだ。
「おっはよー! あれ? 兄ちゃんどうしたの?」
「兄貴、大丈夫か? お、うまそー!」
「おはよ。兄さん、朝から情熱的だね」
「それより早く食べないとみんな遅れるよ?」
「うお! 藍、お前いつのまに食ってたんだよ! って、もう食い終わってるのかよ」
「まったく貴様のせいで俺まで遅刻したらどうしてくれる、この愚民め!
「にいさん、わたし、おさかないりません」
「だめですよ。食べないと、大きくなれません」
「兄さん。早く食べましょう」
「……うん!」
「おっはようございまーす!」
「………」
 光家の朝は、少々、否、かなり忙しく、騒がしい。





設定
れいちゃん(29)
しょーさん(27)
ときやさん(25)
れんれん(22)
おとやん(20)
らんちゃん(18)
みゅーさま(17)
まさ(15)
な(12)
セシ(11)
あいちゃん(10)

親はいなくて、れいちゃんとしょーさんがめっさがんばった設定。トキヤさんはがんばろうとしたら上二人に無理矢理大学まで入れられたかんじですかね。レンレンは気軽にエンジョイしてて、おとやんは専門じゃないっすか?
らんちゃんは大学で、みゅーさまは高校生。まあ様も高校生か。下は全員小学生で、御曹司組とらんかみゅの仲は原作どーり。御曹司組は小さい頃仲よかった。
     
return
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -