愛証の夜
 夜に一人で見る映画ほど勉強になるものはない。
 面白い面白くない以前に、一役者目線で見てしまっているから辟易してしまうことは否めない。
 苦ではないのは、こういったことが嫌いではないからだろう。なんだかんだ言いながら。
 けれど、欲を言えば、どちらも欲しいというのが本音だ。
 そして、それは恋人が隣にいる状況で。
 というのは、些かワガママだろうか。
 膝の上で眠る恋人の姿に、息を漏らす。
 すやすやと眠る恋人は、日ごろの仕事疲れからか途中で眠ってしまったらしい。滅多に見せない穏やかな寝顔を披露している。
「んん……」
 時折寝苦しそうにしながらも、しっかりと膝の部分を握って離さない。
 なんだかおかしくって、揺らさないようにと変な気を遣って笑った。
「レン、終わりましたよ」
 呼びかけるのに、起こさないようにとしてしまうあたり矛盾だ。
 眠っている恋人を起こすのはどうしても忍びない。
膝を占領されてしまっているから動くことも出来そうになかった。動けるようなら毛布でもかけてあげようと思ったのだが、足が痺れてきている。
早々に毛布は諦めた。
視線を戻すと、ちょうどエンドロールが終わっていた。
 甘いロマンチックな恋愛ものでもなく、SFものを選んだのだが、どうやらこの恋人にはあまり楽しめなかったようだ。やっぱり今度は恋愛ものにしようか。雰囲気づくりにもいい。
 次の予定をたてながら、無造作に散らばる髪を集めた。ぴょんぴょこオレンジの髪は放置され、ぐしゃぐしゃになってしまうかもしれない。
 どうせ明日シャワーを浴びるのだろうけれど、それでも髪がまとまっているにこしたことはない。
 丁寧に掻き集め、束ねた。
 指に滑らかにすり抜ける髪。
 寝ている恋人の髪で遊ぶ。
 夢の中で彼は何を見ているのだろうか。そんな想像を働かせながら。






 目が覚めたのは、真っ暗な部屋の中に、テレビの画面が灯りとなっていた時刻。まだ夜は明けていない。
 ああ、寝てしまったのか。と悟ったのはすぐで、やっぱり自分にはSFなんて性に合わない。
 それでも一緒に見たのは、少しでも隣にいたかったから。途中で飽きたけど。
 役者肌の彼と違い、映画一つとっても娯楽より勉強を優先させることなんて出来ない。映画はあくまでも映画で、娯楽だ。勉強となれば話が別だが、それも言われない限りはしないだろう。
 飽きて、少しの間は勉強に勤しむ恋人の横顔を眺めていた。秀麗な顔立ちが、じっと見据えるのは役者の言葉選び、指先一つの動作。
 何一つ見逃しはしまい、という感じだった。
 それにも飽きて、かまって、と膝を占領してみたのだけれど勉強中の彼には届かなかった。こっそり拗ねて、そのまま不貞寝したのだ。
 恋人らしい、といえばそれまでだけど、なんとなく寂しさとかも隠せない。
 きっと隠さなくていい、なんて甘い睦言を言われるから言わないに限る。
 ふと、髪が束ねられていることに気付く。髪に、恋人の細い指がかかっている。
 頭を動かすと、眠っていた。
 起きている時にしてくれたのか。
 しまった。かまってもらうチャンスを逃してしまった。
 膝をこのまま占領するのは悪い気がしたので、明け渡すことにして、毛布をとってかけてやる。寒かったろうに、動かないでいてくれたのだ。
 自分もその隣に座って、彼の毛布を半分貰う。
 だけど、かまってくれなかったからこれくらいはいいだろう。
 まるで恋人みたいだ。
 なんて、おかしなことを思って、自分の考えなのに笑う。
 彼の肩を痺れさせないように、背凭れに頭を乗せて目を閉じる。






 目覚めると、膝の重みは消えていた。
 代わりに、温かさと、隣の体温を感じた。
「可愛いことを」
 肩に寄りかかればいいのに。
 そうしなかった理由もなんとなく察せてしまう。
 クスリと笑みを零し、まだ夜明けを控えた外を眺める。
 今日は仕事はない。恋人もだと言っていたから、まだゆっくり出来る。
 恋人に毛布を与え、自分は寝室に入る。
 ベッドに入り、眠気は待つことなく訪れた。
 ドアの方、半分を空けて、目覚めたらきっと潜りこんでくるだろう恋人を夢の中で待った。






 カーテンの外が、少し明るくなった。
 目覚めると、体温は消えていた。代わりに、毛布がかけられていて、恋人の姿は消えていた。
 一つしかない寝室に入ると、ベッドの上に眠る秀麗な顔。
 不自然に空いた隙間に、にんまりと笑う。
 カッコよくベッドまで運ぶ力なんてありませんよ。とは、以前無謀なチャレンジを試みた恋人の台詞。
 代わりに、スペースを空けて待ってくれるようになったおかしな優しさは、ずっと続いている。
 きっちり布団も半分空けておいてくれていたので、遠慮なく潜りこむ。温かい体温に抱き着いた。
「まったく、可愛いったらありゃしない」
 無意識か、すぐに抱き返される腕の感触に、これは暫く止まりそうにないなと、引き締まらない頬のことは早々に諦めて目を閉じた。
     
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