誰が行くかよバーカ!
くっそありえねぇ。
「灰崎」
にっこり。不気味な笑顔を浮かべた男。くっそわりぃ目つきはなりを潜めている。
「来るよな?」
有無を言わせない言葉に、抗えない見えない力を感じた。
「灰崎」
俺は、テーブルの下で握った拳に力を込めた。無意識に歯軋りする。
そして、
「誰が行くかよ、バーカ」
嘗ての先輩へと、舌を出した。










俺の腹には虹村先輩との間に出来たガキがいる。半年、俺の腹でスクスク成長してくれたガキはゲーゲー吐きながら意地で食ってまた吐く親のことなどお構いなしに元気だ。先輩に似て図太いガキになりそうで先が思いやられる。
腹が出てきた頃、再び帰国した先輩に見つかった。俺の腹を見ても驚いた風もなく、にっこりとあひる口で笑っていた。
こういう時の先輩ほど恐ろしいものはない。過去、この笑顔の先輩に散々な目に遭わされた記憶が蘇った。
先輩に引っ張られ、近くのファミレスへ連れ込まれた。
そして、冒頭のセリフである。
店員は先輩のオーラに近寄れず、ここだけが異様な雰囲気に包まれていた。
「灰崎?」
にっこりと威圧が苦しい。が、ここで負けるわけにはいかないのだ。
笑顔の後は必ずボコボコにされた。目つきの悪さとあひる口が引っ込んだ時はゾッとして一目散に逃げていたものだ。けど、今は出来るはずもない。腹にガキがいる相手に。
「赤司に聞かされて知るなんてどういうことだ、ああん?テメエ灰崎なめてんのかコラ」
赤司ィイイイイイッ!
あの俺様僕様二重人格者野郎はどういうわけかこの先輩に懐いていた。先輩のためならアメリカ一国くらい買い取れる御曹司様は、今回も先輩のために一肌脱いでくれたわけだ。
まあ、そもそも、先輩に教えるとしたら赤司か他の奇跡の世代しかいない。
だが、他の奇跡の世代と違い赤司に楯突くのは自殺行為。文句の一つも言いたいところだがガキごとぶっ殺されそうだ。あいや待てよ、先輩のガキだから俺だけヤられるか。って、結局俺死ぬんじゃねえか!
「アンタが勝手にアメリカ帰ったんだろ。なら俺がどうしようと勝手だろ」
そもそもの発端は先輩の一時帰国だった。一週間だけ日本に戻ることになった先輩とセックスし、何も言い残すことなくアメリカへと帰って行った。腹にガキがいると知ったのは二ヶ月後。
「一人で産んで育ててって出来ると思ってんのか」
「してやるよ」
「灰崎」
先輩は、俺を睥睨した。
一歩も引くつもりはなかった。ボコボコにされても先輩の元に行く気はない。
「灰崎」
イマドキは片親にも優しくなってきてるんだ。ガキを預けて働きまくればなんとかなる。先輩の手を借りずとも。
先輩の手だけは絶対に借りない。
先輩は、諦めたように長い溜息を零した。そして、席を立った。
帰るのか、と思った。それも束の間。再び手を取られ、ファミレスから連れ出される。今更逆らうのもめんどくさくてされるがままだった。
連れられたのは、都内のホテルの一室。ビジネスではない。
鍵がかかり、背中に嫌な汗が落ちた。
「お前には下手に出ても意味ねえからな。俺のガラじゃないし」
下手に出られたら身の危険を察してトンズラしてただろう。
「上からつーのも違うしな。だから、とりあえず監禁するわ」
「ハァッ?」
ギョッと目を剥く。
何がだからでとりあえずなのか。文脈もないどころか発言が危険極まりなかった。
「まあ安心しろよ。お前が来るって言えば解放してやるから」
「ちょ、先輩!」
「だから」
刹那、グッと距離が縮まった。息を飲む間に、先輩の顔が目の前まで接近していた。
「早く折れろよ、灰崎」
にっこり笑顔が、フラグを立てた気がした。
後悔先に立たず。逃げようとしてももう遅かった。





「ぐ、」
淫猥な水音が支配する。
ホテルの一室。ベッドに連れ込まれてから一度も外に出ていない。セックスの時くらいしか地面に足もつかず、中から先輩のものが抜けたこともない。
安定期に入ってて良かった。ガキはまだ腹にいるってことがなんとなく分かっていた。
先輩は遠慮容赦なく俺を攻め立てた。啼けとついては、聞こえてもいいのかと脅し。
最早日にちの感覚すらなかった。
「ホントお前も頑固だな」
「っせ・・・」
それでも、最後の砦だけは守っていた。何度ドライでイかされようと、来い、という命令だけは聞けなかった。
「だ、れが・・・アンタに、コイツを・・・」
渡すかよ。という言葉も続けられず、奥を抉られて果てた。
白濁も出せずに意識だけを保たせられ、呼吸を整える。
「灰崎」
んだよ。声は、紡げなかった。
先輩を受け入れさせられた身体に筋肉質の手が絡みつく。
「俺の知らないとこでガキ腹に作ってて、産んで、育てて。俺はずっと知らないのかよ」
アンタが悪いんだろ。帰ったのはアンタだ。
「そうやって、これからも俺はお前とのガキの成長も何も知ることが出来ないのか?遊んだり、成長を喜んだり、病気に罹ってハラハラしたり。そういうことを俺だけが知ることがないんだぜ?」
「・・・」
なんで俺を責めるんだよ。違うだろ?ガキ腹に作るだけ作ってとっととアメリカ行ったのはアンタだろ?なんで俺が責められなきゃなんねぇんだ。
「なんで教えてくれなかったんだ?お前とのガキだったら嬉しいに決まってんじゃねえか。なんで来てくれないんだ?俺はお前とガキと三人で暮らしてくことも出来ねえのか?」
なんで責めるんだよ。
なんで、そんな寂しいみたいに。
「灰崎」
限界だった。
先輩の本音が次々と俺に流れ込んで、頭を抱えたくなった。
「俺は、ごめんなんだよ・・・後で、後悔するのは・・・ガキさえいなければとか、アンタが俺が来なければとか・・・そういうの・・・」
やっと吐き出した本音は、吐息に紛れて聞き取りにくいものだった。
先輩はちゃんと聞いてくれた。耳を傾けて。
けれど、
「んぁああっ!」
次の瞬間、動きが再開される。
「せんぱっ、あっ、う・・・」
見上げた先にあった顔に、血の気が引いた。
「灰崎ィ、テメエふざけてんのかコラ」
超ド級の笑顔がそこにあった。
「あっ、ぐ、う、うっ」
「テメエなに中学時代の先輩取っ捕まえてその辺のクソ夫みたいに言ってくれてんだあぁん?誰がうだうだ後になって文句だだ漏れ生活送るって?ええ?」
「あ、あっ、せんぱ!」
怒ってる。なんてもんじゃない。ボコボコにされるのなんて目じゃない。赤司以外に感じなかった寒気を感じた。
「テメエとのガキなんて可愛いに決まってんだろ今から名前考えてるわボケ。テメエ何先輩の中学時代から続く純情踏みにじろうとしてんだヤり殺すぞ」
「ひ・・・っ」
そして、先輩に攻め立てられ、頷かせられたのである。









「うわぁ、ショーゴくんの子供って思えないくらい可愛いッスね」
「おいリョータテメエなんでここにいんだ」
「虹村先輩のガキとも思えねえな」
「赤司ィ、青峰ぶっとばしとけ」
「わかりました」
「ちょ、うお!赤司!」
「すみません、病室で騒ぐのやめてもらえますか」
それから。俺は、女の子を産んだ。何故か勢揃いしている奇跡の世代についてはノーコメント。
「ふぁ・・・」
「ん?どうした?」
小さな娘は、ふぁふぁ何言ってんのか分からん。くしゃくしゃの猿みたいな顔は、それでも可愛かった。
「ザキちーん、なんかキモチワルイ」
「あぁ?テメエ紫原やるかコラ」
「まあ待て。ママはパパを頼りなさい」
「すいませんでした」
娘は、俺の手をふみふみと握る。握ってんのか分からないくらい力で。
「ふぁ、ふぁ」
「ふはっ、楽しいかよ。紗子」
「楽しいよなー。なー?さーぁこ」
先輩が笑って、俺と娘を抱き締めた。
     
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