13
「レン、エクラ。貴様らそこで何をしている」
「………」
「………」
ルフレの部屋の前。父カミュは額に青筋を浮かべ、二人を見下ろす。
レンとエクラはそっくりの顔をカミュに向けた。仁王立ちで見下ろす家長がブリザードを吹き荒らしている。
あ、やっべ。
二人は、思った。
カミュは二人の手を見遣る。
ドアに耳を当て、恐らく聞き耳を立てていたのであろうことは明白だ。考えなくてもわかる。妻と妻にそっくりな息子のやりそうなことだ。
「レン」
「……」
「エクラ」
「……」
応えは、ない。
だが、手に取るように分かる。
今、二人が何を考えているか。恐らくここから逃げ出す算段でも立てているのだろう。無駄なことを。
妻と子供達には滅法甘い自覚はあるが、一方で容赦ないことも自覚している。
特に、今は気が荒ぶっている。
ドアの奥で何をしているか。この二人がこんなことをしている時点で、火を見るより明らかである。
まだ認めたつもりはないのに、あのバカ猿めが。俺の娘に手をだしおって。
しかも付き合って初日である。許せない。キスもまだ許した覚えはないのに一足飛びどころかぶっ飛ばしてる。
剰え、カミュもいる家の中で。
腹立たしい。実に不愉快だ。
いっそ氷漬けにしてやろうか。娘が悲しもうが知ったことか。あの男亡き者にしてくれるわ。
「パーパ
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」
「……クレル」
カミュは頭を押さえた。
「どきなさい」
「い・や
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」
普段は自分に似て、甘えるだの全くしないというのに、首と背中から感じる体温に溜息が漏れた。
「ね。おでかけしよ? クレル、欲しいのがあるの」
「買ってあげるから明日にしなさい」
「あとね、パパとディナーしたいな
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」
「クレル。何度も言うが」
「ママも行くよね?」
「行く!」
「オレも!」
「……」
はめられた。
分かっていても、とっくに抗う気力は奪われていた。
カミュは長い溜息をつく。自分そっくりの娘は、何を喜ぶのか分かりきっている。きっと行かない、と言ってもあの手この手を使ってきた挙句最終的には「パパ嫌いだからママとエクラとおでかけ行ってくるもん!」とわざとらしく言いさっていくのだろう。
ああ、腹立たしい。実に腹立たしい。
わざとだとわかっていても可愛いことこの上ない娘が腹立たしい。
おのれ、バカ猿。覚えておけよ。
「さっさと支度をしなさい。出来ないなら行かない」
「わーい、パパ、ありがとう
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」
頬にキスを一つ残し、娘は自分の部屋に戻った。
「パーパ、ありがと
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」
息子も反対側にキスを落とし、同じように部屋へと戻る。
「レン」
残されたのは、最愛の妻。
「むこう三日。よもや寝られるとは思っていまいな?」
絶対零度の微笑みに、レンは真っ青になりながら頷いた。
「は、はひ……」
オレ、死んだ。
もう子供は作らない予定だったが、絶対また出来る。
「あーあ」
「さっさと逃げれば良かったのに」
こうなることを見越していた三つ子の二人は、ドアの隙間からそっと覗いて肩を竦めた。
「後でママに何かプレゼントしよ」
「大丈夫だぜ、ママ。オレ、ちゃんと手伝うって」
最愛の母に合掌し、二人は出掛ける準備を始めた。
最愛の夫が部屋に戻っても尚妻は意識を飛ばし続けた。
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