10
二人は、ルフレの部屋に上がった。
父は母が宥めてくれると言った。
ドアを閉め、ルフレは黒崎蘭丸に抱き着いた。難なく受けとめられ、広い胸板に抱かれる。
「ランちゃん」
「ん?」
「ランちゃん」
「ん?」
「ランちゃん」
「どうした。ルフレ」
「ランちゃん」
「ルフレ」
「ランちゃん」
「ルフレ」
ルフレは、黒崎蘭丸の胸に顔を埋めた。
バラの花束がくしゃりと音を立てた。真っ赤な花弁が、さわりと音を立てる。
背中に腕を回す。ルフレの腕の長さでは少し足りないくらい。広くて厚い胸。シャツの裾にしがみつく。
熱い。
掌から黒崎蘭丸の体温を感じる。耳元からは心臓が一生懸命に音を立てている。
柄にもない。ルフレと同じだなんて。
「ふふ。スーツなんて持ってたの?」
「買った」
このためだけに。
スーツなんて全然着ないのに無理して、頭はぴょんぴょん跳ねてて、カラコンもしててちぐはぐったらありゃしない。あんなピカピカの靴だなんて一生縁が無かったろう。
それも全て自分のためだと思うと、頬が自然と緩んでしまった。ニヤケ顔を隠した。
「プロポーズの時も着てね」
「またすんのかよ」
「だってお付き合いからでしょ?」
「チッ」
「ちゃんと、娘さんをくださいって言う時も着てね?」
「・・・」
「らーんちゃん」
腕の力が強くなった。
肩口に埋められた顔。少しだけ見える耳は赤い。
バクバクと走っているみたいな心臓が耳のすぐそばで聞こえる。
「楽しみにしてるね」
「もうお前黙れ」
瞬間、唇が塞がれた。荒っぽく、無理矢理に重ねられる。
抵抗はしなかった。そっと瞼を下ろして応えた。
舌が侵入することはない。
頬に触れた指が熱を持って、焼け付きそうだった。唇からも伝わる熱は、宛ら身体が燃えているよう。
「ランちゃん・・・」
漸く唇が離され、ルフレはうっとりと黒崎蘭丸を見詰めた。潤んだ眼差しが煽情的だ。
ぐっと詰まって、黒崎蘭丸は再びルフレの身体を強く抱きしめた。
小さな身体。細くて柔らかくて。発達途中の未熟さが際立つ。
この幼い身体の将来を丸ごと手に入れたのだ。
「ルフレ」
本能を理性で抑制しようと試みた。が、何れも失敗に終わる。
抱き締めたのに、そのせいでより欲望が膨らんだ。
「悪ぃ。お前を抱く」
ルフレは、目を見開いた。
プロポーズはされたが、まさかそこまでの関係になるとは思ってもみなかった。これからデートとかしてイチャイチャ出来るんだと、ハートが飛び交ってるだけだった。
欲望の対象に見られている。
身体の力を抜く。シャツを握り締めていた手を解く。
刹那、息を飲む音がした。
ルフレは、顔が見えない恋人を見詰めた。しがみつくように抱き締める恋人が愛おしい。
「はい」
また、息を飲む音。
果たして、彼は気付いただろうか。身体の力を抜いたのはやる気がないからではなく、抵抗しないということなんだってことを。
きっと気付いていやしないだろう。今はそれでいい。
きっとそのうちわかってくれる。
「チッ」
突如、ルフレは抱き上げられた。
驚く間も無く、ベッドに下される。文句を言う間も無く、大きな身体がルフレの上にのしかかった。
いつも寝起きしているベッドがドキドキする。
黒崎蘭丸は呼吸を整えていた。ふう、ふう、と深呼吸をしている。はやる気を落ち着けようとしているのが可愛らしくもあった。
クスリと笑うと、じとりと恨みがましく睥睨された。
「笑ってんじゃねぇよ」
「ふふ、ごめんね」
精悍な顔がむっと顰められた。
クスクス笑うたびに、眉間の皺が濃くなる。
ツンツンと突くと、目が吊り上がった。
「すぐにその余裕をなくしてやる」
「ふふ。うん」
「そんな風に笑っていられないんだからな」
「それは楽しみね」
「チッ。レンみてえなこと言いやがって」
しかもアイツの顔で、とブツブツ文句を垂れる恋人。
よく突っ掛かり合う父との会話を思い出して笑った。
「ったく。ホント中身はレンだよな」
「ママだと嬉しい?それとも嫌?」
「アイツの顔だからな」
フクザツだと、黒崎蘭丸は顔を顰めた。
「なのに、するの?」
「ああ」
「出来るの?」
「正直、ヤバイ」
押し付けられる、膨らみ。布地の上からでもハッキリと分かる怒張。
ルフレは、目を瞠った。
「気付いてないだろうけど、お前の顔って女版アイツだけど、段々違ってきてるんだよ」
「え?そう、な・・・の?」
「ああ。今ホントヤバイ。・・・アイツに見えなくて」
「っ、」
とくん、と鳴る胸。早鐘を打つ。心臓が、一生に刻む音が決まっているのだとしたら死んでしまうかもしれない。
ルフレの容貌は父に似た。絹のような髪も、氷のような美しい顔も。
それは、コンプレックスだった。黒崎蘭丸に好きになってもらえない要素だから。
「ルフレ」
そして、乱暴に唇が重ねられる。
力業だった。強引に、荒くれて、喰らい尽くされるようだった。
応えることも出来ず、受けとめるだけでいっぱいいっぱい。頭が白んできて、息が苦しい。紡ぐのもままならない。
黒崎蘭丸からのキスが嬉しくて、涙が零れ落ちていった。
     
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