9
我に帰ったのは、父カミュだった。
大仰に溜息をつき、天を仰ぐ。
隣で黒崎蘭丸が頭を下げたまま唾を飲む。ルフレも一連の動きに息を止めて見ていることしか出来なかった。
「ルフレ」
「は、はいっ」
そのままの姿勢で呼ばれる。
ルフレは居住まいを正した。
「そんなに好きか。その男が」
喉奥から絞り出したような声。初めて聞く父の痛ましい声。
けれど、ルフレの腹は決まっていた。変わらない。
もう何度だって出した答えだ。
相手がいると知っても諦められなかった。
好きでい続けることは辛いことだ。想いが通じ合っている間はいい。想いが通じないと分かっている相手を想い続けることは辛い。
誰しもがそんなに辛い想いをしなくていいと、想うことに疲れる。諦めてしまう。
ルフレも例外ではない。諦めようとした。
だが、出来なかっただけだ。
何度諦めようとしても、黒崎蘭丸はルフレの出会った男の中で最高の男だった。出会った瞬間から、好きだと、この男の女になりたいと思った。
諦めることを諦めただけだ。
「はい」
まっすぐ父を見つめる。
黒崎蘭丸と同じく最高の男を。
ルフレが知る限り、父カミュは最高の男だ。黒崎蘭丸がおらず、母もおらず、父の娘でなければ選んでいたかもしれない。
けれど、キャストは揃っていた。
ルフレの好きな人は、黒崎蘭丸だ。
「・・・そうか」
父は視線を二人に戻した。
何かを決断した瞳が見据える。
「黒崎、ルフレ。二人の交際を認めよう」
「カミュ・・・っ」
「パパ!」
「だが」
期待に目を輝かせた二人に、一瞬で威圧が向けられる。
「交際までだ」
そして、冷たく降ろされる決断。
黒崎蘭丸とルフレの目に失意が宿る。
それは、生涯を共にすることまでは認めないと先手を打たれたも同然。
カミュは二人の目に口角を上げて笑った。
「なんだ。そんなに自信がないのか?」
「は?」
「ぱ、ぱ?」
目が眇められる。
その横で、ずっと黙秘を貫いていた神宮寺レンが噴き出した。
訳も分からず目を白黒させていると、父は呆れたというていで溜息を零した。
「そこから先は貴様とルフレ次第だ」
「は?」
「え?」
固まる二人をよそに、カミュはソファーから立ち上がる。
止める間もなく、リビングから出て行ってしまった。
「どういう・・・」黒崎蘭丸の呆然とした呟きが宙を漂う。
ルフレも同じく目を丸くするしかなかった。
ただ一人。母だけは大爆笑していたが。
一頻り笑うと、母は涙目で口を開いた。
「つまり、認めるけど、結婚とかはまた別ってことだよ」
「え、は・・・」
「まあ気概は買うけど、大事な娘をそうやすやすとくれてやりたくないんだよ、バロンは」
あっけらかんとされた種明かしに、暫し二人は言葉を失う。
「って、わかりにきーよ!」
「え?そう?」
「寧ろなんでお前はわかんだっ?」
教訓。娘さんをください、のセリフは順序を踏みましょう。
     
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