8
落ち着いた頃を見計らって、それまで黙していた黒崎蘭丸が口を開いた。
「カミュ、レン。話がある」
深刻な雰囲気に、ルフレは不安そうな視線を向ける。
だが、黒崎蘭丸は意志の強い目を両親に向ける。
「いいだろう。来い」
父は先を行く。母も後に続いた。二人の目はいつもより険が強かった。
黒崎蘭丸は後に続く。今度はルフレの手をとらなかった。
一人取り残されたルフレは不安に震える手を胸の前で握り、ぎゅっと目を閉じた。
大丈夫。大丈夫だと信じている。
呪文のように、安心させる。
そして、リビングに向かった。
先に行った三人はソファーで対峙していた。
ルフレは黒崎蘭丸の隣に腰を下ろす。
「会見は見たな」
「ああ」
「あれの通りだ。俺は、ルフレと一生を共にする」
宣言。
ルフレは分かっていたこととはいえ、やはり不安は拭えなかった。
公衆の面前で告白されたことも、マスコミ相手に宣戦布告してくれたこともつい今しがたのように記憶に鮮明だ。
しかし、それが通用するのか。
どうか通じてほしい。祈る気持ちを胸に、拳を作った。
「それを俺が許すと思っているのか」
予想通り、父は荘厳に棄却した。
だが、そんなことは黒崎蘭丸も想定しているだろう。全く動じていない。
「それでも、俺はルフレを愛してる」
更に真正面から堂々と告白した。
父の眉間に皺が寄った。
「ふざけるなよ。手塩にかけて育てた娘をそう安々とくれるものか」
母もオロオロとすることはなく、先輩アイドルの黒崎蘭丸を真正面から見据えていた。こんな時は腹が据わっている。
ハラハラと落ち着かないのはルフレだけ。
「大体貴様はルフレの想いから逃げていただろう」
「もうやめた」
「やめた?」
「こんなに一生懸命俺だけを見てくれるんだ。好きにならない方がどうかしてる。今じゃ可愛くて仕方ない。それに・・・」
「それに?」
黒崎蘭丸は一息ついて、やっと隣に座るルフレを見た。
愛おしむ目が向けられる。ルフレは息を飲んだ。同時に不安が霧散した。
大丈夫。
黒崎蘭丸なら、ルフレの選んだ男なら。
「それに、もう手離せない」
ふっと細められる眼差し。くしゃりと頭を撫でる大きな手。
そうだよな。という目に、ルフレはうんうんと頷いた。
「・・・貴様」
「今までお前らのガキだから逃げたけど、もう無理だ。アルファとオメガのように結ばれた運命じゃなくても、俺はルフレが好きだ」
「黒崎」
「もしルフレ以外の運命を選ばなきゃいけないなら、そんな運命こっちから願い下げだ。そんなもんを選ぶくらいなら舌噛んでやる」
黒崎蘭丸は、ベータだ。アルファやオメガのように運命や決まった番はいない。
けれど、もしいたとしてもルフレ以外なら切り捨てる。否、そのようなものは要らないと言ったのだ。
「認めてくれとは言わない。かと言って、お前らを無視する気もない。お前らはルフレの親だ。ルフレの親を、それに俺の仲間に筋を通さないマネはしたくない」
黒崎蘭丸は、頭を下げた。
ルフレだけではなく、母も息を飲んだのがわかった。
「頼む。ルフレを俺にくれ」
     
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