それは、愛
日差しが強い日だった。
「なんで外なんか見る! 俺だけを見ていろ! 外なんか見る必要はない!」
ガッ、ガッ。
人肌を殴る音が響く。
殴られているのは、年端もいかぬ幼子だった。対して、殴っているのは、成人している男。
「そうか。カーテンをつけよう。真っ黒な、外も見れないカーテンを」
幼子は、虚ろな目を向けた。
ぶつぶつと何かを言っているが、内容までは理解出来なかった。
分かっていることは、いけないことをしてしまったということだけ。
幼子は外の世界を知らない。物心がつく頃にはここにいた。
外の世界はどうなっているのだろう、と好奇心が疼いて外を眺めていた。帰ってきた男がそれを見咎め、幼子を殴るにいたった。
「なんでだ! 俺はお前を愛しているのに。なんでお前は俺だけを見てくれない。よそに目をやる」
幼子は、言葉を知らない。
知っているのは、男の名前だけ。
だから男が何を言っているのか全く理解出来ない。
「ああ、違う。見ていいんだ。俺以外も……俺は、俺は……こんな子供相手に……」
殴った後は必ず抱き締めてくれる。ごめん、と何度も言って、泣いて。
子供は男が抱き締めてくれるのを只管に待つ。殴られるのは火傷するように熱くて痛いけれど、抱き締めてくれると心が温かくなって嬉しい。
「愛している……愛してる……」
それが、どういう意味なのかは分からない。
だけど、その言葉は好きだ。
喋り方すらも分からないけれど。
いつか、自分の好きな言葉をちゃんと言えるようになりたい。
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