Never(L)E(or A)nd
「嫌だ! なんでだよ、いくな! 勝手にいくなんて許さねえぞ、なぁおい!」
 命の終わりの間際。散々自分勝手な台詞を並べ立てて、祈る姿。
 心残りだった。
 だって、この子は勝手で、ワガママで、自分がいなくなってしまってはきっと生きていけないだろうから。それは、身勝手なワガママ。残していくというのに、追いかけてこないでほしいだなんて酷だということは分かっていた。
 ああ、誰か。助けて。
 この子の側には誰がいてももうダメだから。自分以外の誰かでは、この子の心は満たされないから。
 ねえ、だから。
「いくな! いくなら俺も連れていけ! おいていくな!」
 ワガママな身勝手さは、この子の心を映していた。
 死なないで。一人にしないでと願う子供の心。
 叶うならば、その命の終わりまで見守りたかった。
 けれど、もう最後のひとかけらが零れようとしていた。眠るように静かに、息を吸う。二度と吐き出すことはないと知って。
「頼むから! なぁ……っ」
 どうか。

 誰、か。

『その願い、叶えてやろう』

 その時。一陣の光が走った。
 光は、今際の際を迎えていた肉片へと突き刺さり、瞬く間に消えた。
 束の間、子供は目をしぱしぱとさせた。
 やがて、正に今しがた失われたはずの命の鼓動が聞こえてくると、大きく目を瞠った。
「ただいま」
 のろのろと目を開けたその命が、にっこりと笑う。
 子供は顔をしわくちゃにしながら、ぼろぼろと涙を流した。
 失われてなどいなかった命を力いっぱいその腕に抱きしめて。










『その願い叶えた』
 低い声は、言った。
 それの正体はわからない。どうでもいい。この命を長らえられるのならば、悪魔に魂を売っただろう。
 悪魔ではないと、なんとなくわかった。理由はない。直感だ。
『その子供の命が尽きるまで。お前はその命を終えることはない』
 ホッと息をついた。
 よかった。
 しかし、声は現実を突きつける。
『まあ、正しくは「死ぬ」ことは出来ない』
 さっと、胸に冷たい風が走った。鼓動が早く走り、悪い予感を運んでくる。
『当然であろう? お前は既に死んでいる。残りひとかけらと雖も残りは死んでいたのだ。辛うじて残っていたひとかけらも零れ落ちる間際。私はそれを止めたに過ぎない』
 寸前で止められた命は、「死ぬ」こともないが「生きる」こともない。命そのものが止まっているのだ。
『よって、お前はこれから子供の命の終わりまで年をとることも欲求に満たされることもないだろう』
 眠ることも、食べることも、セックスをすることもない。しなくてもいい。生きていないのだから。
『それが、お前と子供の願いの代償だ』
 では、子供は……。
『お前から子供に事実を話してはならない。話してはならないということすらも』
 子供はいずれ覚るだろう。年をとらないことも、子供がうまれないことも、人間ではないことも。
 理由を問うても答えは得られず、己の願いの代償の罪過に生涯苦しむだろう。
 そして、知る。
『お前はもう二度と生きることは出来ない。人としても。一度時を止めた罰は、お前が負え』
 人を生まれ変わらせることは出来る。
 だが、この場合は出来ない。命そのものを止めてしまったからだ。生まれ変わるにも、止まってしまった時はおかしいことに気付き、狂い、やがては人を食らいだす。
 だから、これが最後の一生。
『精々苦しむがいい。自分の願いのために苦しむ子供を見続けなければならないことを』
 それは、贖いにも似た代償。
     
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