消滅
 それは、大樹の下で蹲っていた。
 名前を呼ぶと、物凄い勢いで振り返った。どんな名前だったかは覚えていない。確か「子」がつく名前だった気がする。
「人間」の姿を認めると、双眸を緩やかに瞠って、零れ落ちそうなほどに開いたかと思えば水滴を零す。ぼたぼた、ぼたぼた、と。
 いてもたってもいられない。と言わんばかりに、飛びつく。
「人間」の腕に飛び込んで、わんわんと泣く。罵ったり、会いたかったと言ってみたり忙しない。
「人間」は頭を撫でてやった。礼や謝罪の言葉はなく、愛おしげに眺めていた。
 やがて、ひくひくと嗚咽を残して落ち着く。

 ―――またね

 その時、腕の中が光を放った。強い光ではなく、淡雪の如く仄かな炎の光。
 溶けるように、光は消えていく。
 頷きを一つ残し、光は消えた。
「いいのか」
 問う。他にかける言葉を何一つ贈らず、ただ一言再会をにおわせるだけだった。
「人間」は、頷いた。

 ―――こんどは、わたしがまちます

 拙い言葉に、仕方ないやつと零した。
     
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