「メイ、メイ!」
静寂の響く廊下に、同じくらい静かな声が響く。
「メイ!」
声は、探し人を求め、右へ左へと響いていた。
「メイ、さっさと出てこい!」
「呼んだぁー?」
やがて、間延びした声が応えを返した。
「私が呼んだら何を置いてでも駆けつけろと言ってあるだろう」
「ごめんごめんー。高良さんとこの前のお仕事で話してたんだぁー」
「言い訳にならん、愚鈍め」
「ごめんってばぁー」
散々貶されておきながら、ちっとも気を悪くした風もなく、にっこりと誤った。
まるで心情を見通している、とでもいうようで腹が立つ。舌打ちを一つ向け、くるりと踵を返した。
「行くぞ」
「えー?」
「次の仕事だ」
「もう?雫陽、働きすぎじゃない?」
「お、ま、え、も、だ!」
「えぇーやだぁーつかれたぁー」
「いいから行くぞ。私の手を煩わせるようならば、今すぐ箱詰めして高良に送り付けてやる」
そう言うか言わないか。スタスタと早足で行ってしまう。
メイは、ふっと笑みを零した。
隠しているようだが、こちらからは赤くなった耳が丸見えである。
他の人と話しているとすぐに声を荒げて、犬猫のように呼びつけるものだから、ついついその声が聞きたくてやってしまうのだ。
「待ってよぉー」
自分に新たな生き方を示してくれたくせに、それは自分のためではなく、恐らく寂しいと泣く心に気付かない無意識の内の欲望。
「明るいところに、もう出ておいで」と名付けてくれた「明」という名をくれたくせに、暗いところで一人膝を抱えているのは誰なんだか。本人が無自覚なのがおかしくてならない。
それでも、その名に救われ、抱いた心があるのだ。
寂しがり屋で、一人にならないための欲望だとしてもいい。最期に救い出してくれたのは、雫陽だ。
「メイ!」
さっさとしろ、と怒鳴りつける声に破顔した。
「はぁいー」
誰のどんな欲望も自分を捕らえて離さず、息苦しくてならなかったけれど。
あなたの愛欲にだけは、いつまでも繋がれていたいと思う、その心を求めてくれた。
名前の通り、太陽の雫を零して。
「待ってよぉー」
「誰が貴様なんぞを待つか」
「えぇー」


終わりなき最期の日まで、きっとあなたを愛している。
     
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