ずっと遠い昔。私は悪い神様だった。
何故そうなったのかは覚えていないが、知識として最初から頭にあった。母なる神がそう決めたからだ。
人を呪い、殺し、祟る。
神としての役割に疑問すら抱かなかった。
村のはずれに私の祠はあり、時折村人が訪れては畏まりながら奉納をしていく。私の機嫌を損
ねては村を潰されるからだ。
私はそれを暇つぶしに眺めて、飽きたら眠っていた。
瞬きほどの長い歳月をそうして過ごしたから、年月がどれほど過ぎたか数えていない。
大あくびをこぼして、またそうっと眠った。暇つぶしに人を殺すくらいはした。それでも神の裁きは下されない。それが役割だからだ。
ある時、小さな子供が祠へやってきた。この間の祀りにいたような気がした。
子供は私の袖を掴み、言った。
「あなたは神様ですか?」
よもやこの村から見える人が現れたか。面白くなって頷くと、子供は目を輝かせた。曰く、本当に神様がいるとは思わなかったそうだ。本当にいるんだとはしゃぐ子供は
とてもうるさかった。
子供は名うての都人の子孫らしいが、故あって訪れただけだそうだ。道理で強力な加護がついているわけだ。
「ちちうえはね、すごい人なんですよ。悪い人なんてあっという間にたおしてしまうのです」
「ほう」
「それから、たくさんの式神がいて、それから、それから」
なるほど。要するに寂しいのか。
少し後に生まれたという弟の手前我慢しているが、あまり家にいない父を思ってか、俯いた表情は赤子のそれだった。
暇つぶしに話を聞いてやると、子供は夜になって帰って行った。
それから何日か同じようなことをした。
子供はそれからゆっくりと大人になり、やがて
一人前になった。
ある時、子供は私の祠の前で大掛かりな祀りを行った。それは私の魂の根源を変えるものだった。
「ずっと優しくしてくれたから、あなたはこっちの方が似合う」
あの時の面影なく優しく笑った子供は、そう言って村を後にした。
随分身軽になり、魂の根源すらも変えられてしまってう
っかり人の一人や二人殺せなくなってしまったので、私も後に続くことにした。子供はたいそう驚いていたけれど、やっぱり変わらなかった。
都では子供は名うての人間で、天狐の父親の影響を大きく受けていた。力はそれほどではなく、弟の方が大きかったようだ。よく比較され、しょんぼりと肩を落とす。
子供はそれでも前を向いて歩き続けた。死ぬまでずっと。
私は瞬きよりも短い時間を子供のそばで過ごし、そうしてそのまた子供のそばで過ごした。
いつしか私を映す人もいなくなったが、人の営みというのはなかなかによい暇つぶしだった。
平屋が何度か改築され、そうして人が変わりゆく。
私はいつものように子供を眺めていた。
ある時、いつかのように裾を引かれ、はっきりと私を映す丸い目が現れた。記憶と重なるそれに目を瞬かせる。
「あなたは神様ですか?」
いつかとおなじ。その問いに、私は口角を上げた。
来たか。
「久方ぶりに生まれたか。ならば、そなたを守ろう」

吉平と悪い神様






     
return
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -