おかあさん
「絶対に離しちゃダメよ」
おかあさんは言いました。
わたしは離しませんでした。ずうっとずうっと離しませんでした。
おかあさんに手を引かれて、あっちへこっちへ。でも大丈夫です。手をつないでいるから離れることも、迷子になることもありません。
ある日、おかあさんの手はありませんでした。
眠っている間にどこへ行ってしまったのだろう。早く起きればよかった。
おかあさんを待ち続けました。いいつけどおり、ずうっと手をつないでいるために。離れて、迷子になったらたいへんです。
待ち続けました。ずうっとずうっと。
そうして、おかあさんを見つけました。
おかあさん、わたしだよ。ごめんなさい。ちゃんといいつけどおり手をつないでいられなくて。
おかあさんは言いました。
「なんでアンタがここにいるのよ!」
きれいな顔を真っ青にして、わたしの手を振り払いました。
その手は、ずたずたで原型を留めていませんでした。
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