3
ダメだ。

―――――それで、僕の会社がどうなろうと知ったことじゃない。どうにかなったなら、その程度だったということ。それに、優秀な人材を集めたつもりだからね。心配はしてないよ。

それでも、アンタには居場所がある。

―――――聖を捨ててまでしがみつかなきゃならないほどの居場所が?バカを言うな。

この子を使うつもり?

―――――使う?

ダメだ。それくらいなら……、

―――――僕をなめるのもいい加減にしてくれないか。

梓……。

―――――聖。お前以外の何を選べというんだ。





―――――愛する聖以外の、誰を。










やってしまった。
セイは、痛む頭を抑えた。
そうとは知らず、ぐーすか快眠を貪る隣で眠る男をじろりと見遣る。
アフターを頼んだこの男、否、オッサン―――真行寺梓と致してしまったのが昨日の話。
誕生日で浮かれていたこともあって、関わらないように気を付けていたこの男のアフターのお願いに頷いた挙句、ほいほいとホテルにまで付いてきて、最悪なことにヤった。
最初はいやいやと言っていた。しかし、このオッサンのねちっこくも相手を狂わす愛撫に溺れ、最終的にはやめないで、もっとして、とねだったのである。
一見すれば、人の良いオッサンだ。朗らかな笑み、洗練された優しい気遣い。どちらがホストかと思うほどの、甘い瞳。
けれど、その奥に見せる炎を見た時から。セイは極力このオッサンに関わらないようにしてきた。関わってはならないと、関わることを恐れた。
それなのに。ああだのに。こうもあっさりと自ら取り決めた誓いを違えてしまうなんて。バカか、俺は。自分の体が憎い。
快楽を求め続け、ホストとなってからは女の体を開くだけでなく、男に己の体を開いてきた。与えられれば溺れてしまう。
しかし、今までの相手は違った。己の体を開こうとも、主導権だけは決して渡さなかった。上に乗り、自分の良いように腰を振り、相手の快楽など知ったことかと己のものだけを追い求め、追いすがる相手を蹴り飛ばしてきた。
このオッサンに対してもそうだった。上に乗り、快楽に歪む顔に気分が良くなって腰を振って、奪い取った。
只管に己の快感だけを求め、絶頂に達した。ぶるりと震える。中に注ぎ込まれる感覚に頭の中が抜けた。何も考えられなくなり、ぷるぷると己の体が震えていることにも気付けなかった。
セイが絶頂に浸っていると、男は中に出し切るのを待って、若いセイの体を組み敷いた。
何が起こったのか。すぐには分からなかった。上にあるオッサンの顔を唖然と眺めた。が、我に返るとオッサンの体を跳ね除けようとした。、オッサンのくせに案外力強かった。
オッサンはセイの足を大きく開かせた。
咄嗟に秘部を隠す。
しかし、遅かった。オッサンは隠す手をどけてまじまじとそこを見遣った。
セイがひた隠しにしていた箇所。快楽を追い求め続ける体を欺けず、本能に従いながらも誰にも晒さなかった―――女性の生殖器。

―――へえ………

ニヤリ。オッサンが笑う。朗らかな笑みとは打って変わって、ニヒルなもの。見慣れないはずのそれに、妙にこなれたような感じを覚える。
オッサンは、右手をべちょりべちょりとわざとらしく汚いように舐めた。剰え、その視線はセイから外さず。視線をちょっとでも逸らせば、体の中に埋め込まれたままの楔でセイを戒めた。
厭らしい水音に耳まで侵される。けれど、大きく開かれた足の間にある隠してきた場所が、自我を失わせない。
恐怖と不安で震えていた。小刻みに律動が体を振動させる。
オッサンはぬっとりと口から右手を抜いた。そして、セイの頬を撫ぜる。伝うのは、オッサンの唾液だけでなく、感触。今までにない感覚に知らず体がびくっと震えた。
右手は下腹部をなぞり、そして、

―――だ、ダメッ!!

女性器へと伸びる。
つぷっ、と指先がうずまる。
一度も使ったことないそこに異物が入る。今まで後ろしか使ったことがないのに、突然のそこへの介入に恐怖が占める。体が震え続ける。
指はずぬぬ、と徐々に侵入し、セイの体へ侵入していく。
指全体が入ると、その感触を味わうようにゆっくりと動く。恐怖が占め、快感などちっとも感じられず、セイはシーツを必至で掴んだ。
オッサンは制止など知ったことか、と一本、また一本と指を増やしていく。動きはゆっくりとしたもので、辛うじてセイは自我を保つことが出来た。
自我を失うことは出来ない。一瞬でも失えば、セイは「最悪」を知ることになる。守ってきたものが砂上の楼閣の如く崩れてしまう。
それだけは、なんとしてでも、

―――あアッ!!

刹那、セイを襲う感覚。今までに経験したことのない、脳天を突き抜け裂かれるような。
突然のことに、わけも分からず目を白黒させるセイに、オッサンはまたあくどい笑みを浮かべた。
ぞくり。肌が粟立つ。
オッサンは、そこを重点的に攻めた。
セイは初めての快感に成す術もなく、されるがまま声を漏らした。
繋ぎ止めていた自我が、脆くも崩れ去る音がする。さらさら、さらさら、と。
繰り返される快感に、女性器が貪ろうと甘い蜜を零す。それが絡まって、じゅぷ、じゅぷっ、と淫猥な音を奏でた。
秘部からも、耳からも侵される。
セイはシーツを握り締めながらも、耳を塞ぎたくなった。与え続けられる快感にそれも出来なかった。
そして、ぬ、と指が体の中から出て行った。
体から異物が抜け出たことにホッと息をついたのも束の間。オッサンの野獣のような目に射抜かれる。
逃げろ!
僅かに残った理性が叫ぶ。
ベッドに手をついて逃げ出そうとした。が、オッサンの手に腰を掴まれ、一気に体を貫かれた。
ずぱん! 体が反り返る。
熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い!
体に入り込んで来た灼熱の塊。ぐんと硬さを持ち、隆々とした子供の腕くらいはあろうかというものが、セイの中をみしみしと掻き分け進む。
信じられないくらいの、快感とは違う刺激にはくはくと空気を求める。しかし、まるで魚のようにパクパクとしているだけで、酸素が入ってこない。
オッサンは腰を引き、ずろろ、と中のものが抜けていった。
異物感がどんどん薄まる。
もう少しで抜ける、というところで、オッサンはセイの足をかっ開いて持ち上げた。顔の真上に秘部がある。
そして、真上から一気に突き立てられる。

―――あぁあああッ!!!

な、に………こ、れ……。
初めての感覚。いつも味わう快感とは違った、身を裂かれ、喉奥から貫かれせり上がるような感じ。
知らない。こんなもの知らない。
怖い!
そんなセイの心情などおかまいなしに、オッサンはストロークを与えて来た。真上から一気に、ずんずんと押し付けられるものがセイの残りの自我を掻っ攫う。優しい愛撫などとは全く違う、「セイ」を奪うためのもの。

―――あ、ァッ、ああッ!だ、め!ダメぇえっ!!

侵食される。ただの店の客に。今までひた隠しにして、それでも立ち上がって歯を食いしばって耐えて来たメッキが剥がされる。
圧倒的な強者の前に、屈服させられる。
強くなくていいのだと。
ダメだ。そんなこと。
自我が奪われる寸前の金切り声をあげていた。
そうしてしまったらおしまいだと。なんのために耐えて来たのか、何もかもがおしまいだと。
けれど、

―――あ、……ぁアアンッ!!も、と!!奥、奥ぅっ!!!

最後の最期で、セイは自我を自ら捨てて快楽の前に膝を折った。
そして、一際奥に熱が放たれた。オッサンのストロークが止まり、ぶるりと体を震わせた。
ぴしゃり、ぶ、りゅっ、りゅ。
最奥にどろりとしたものが突き放たれる。
セイは、焦点の合わない目で熱を受け入れた。
子宮にまで届きそうなほどの、飛沫。
たった一度しか放っていないのに、もう腹に人一人抱えたような気すらしてくる。

―――は、……ひ、………

力の入らない手で、腹を撫でた。
ここに、オッサンがいる。オッサンの熱を貰った。
宛ら、自分は雌犬か。
セイは荒い息をついて中に埋まったままのオッサンのものをぎゅう、と締め付けた。さっきのあのなんとも言えない快楽が欲しくて、ついには自ら腰を振り出す。

―――は、へ……ぁ、ッあ!

違う。こんなもんじゃない。オッサンのくれたものはもっと乱暴で、強くて。
オッサンは、快楽に耐えるように眉を寄せた。
柔らかなものでも、ましてや野獣じみたものでもない、感じている顔。初めて見る顔だった。
妙に男くさいその顔に、セイは腰をオッサンにぐりぐり押し付けた。すると、またもやあの顔になる。
快感も、オッサンのくれたものに近くなって、押し付けながら腰を前後させた。けれども、まだそれではなかった。
あれ。あれ・・・。あれが、欲しい。あれが、あれが、欲しい!
しかし、オッサンは中から出て行ってしまった。

―――あ、………

喪失感に、セイは声をあげた。切なさと、物欲しげな感じが混じった酷く淫猥な表情。涙や唾液で濡れ、男の精悍な顔立ちが淫欲に塗れていた。
オッサンはセイの足を肩に担ぎ、ベッドに立った。

―――へ?

セイが目を丸くすると、ぱん!と、オッサンのものが秘部へ突き立てられた。否、最早刺すといった方が正しい。

―――ぁあアアアアアアアッッ!!!

悲鳴をあげ、セイはそのたった一度で達した。
そこからは、セイもあまり覚えていない。ただ、野獣のような行為と、それに興奮してもっとちょうだい、と泣き叫んだ記憶がうっすらと残っている。
それと、

―――セイ、本当の名前を教えて

―――ぁ、アッ、アアッ、ぁアアンッ

―――セイ

―――んヒィッ、あ、あ、やっ、ら、めっ!!!

―――名前は?

―――こ、こーき!こーき!!!

―――漢字は?

―――せ、なるっ!ぁッ!はやっ、はやくぅ!!!

―――『聖』、僕は、梓。梓だ。

―――あ、あッ!!

―――梓と、呼んで

―――あじゅさぁッ!!!

名前を教えてしまった。その上、名前を知ってしまった。
こんなオッサンのことなんてどうでもよかったのに、ずっと名前を呼んで腰を振った。
呼べる名前があることに、応えてくれる声があることに、嬉しくて何度も強請った。
そして、今も、鎮まりはしていない楔が聖の中に居座っていた。
昨日のものも掻き出してないのに、このオッサンなにしてくれてんだ。
叩き起こしてやろうと思ったが、正直もうこのオッサンには関わりたくない。さっさと抜いて帰ろう。
と、足に力をこめた。刹那。
「んンンぁアアッ!!!」
ずん、と中を穿たれる。
「ひどいなぁ、聖」
仰け反ったまま、視線だけ投じると、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたオッサンが聖の痴態を眺めていた。
狸寝入りしてやがったな、このオッサン!
「……ぁ…て、め……」
「昨日あんなに愛し合ったのに、もう忘れちゃったの?」
「ち、ちがっ!!」
「言い訳はきかないよ」
言い終わると同時に、律動が始まる。
ほんの少し前まで埋め尽くされていた感覚が、未だ抜け切っていなかった。再び与えられる快楽に、聖は歓喜していた。
「あァんッ、だめぇ、だ、だめっ」
「ほら、ダメじゃなくてごめんなさいでしょ?」
一番奥をぐりぐりと突かれる。
聖は嬌声をあげ、いやいやと首を振った。
しかし、身も心も既に快感を覚えていた。 口から出るのは歓びのものだった。
「ご、ごめんなさ……!あ、だから!……ね、がっ、」
「いいよ」
オッサンは、初めて優しく笑った。





なんでもしてあげる―――僕のかわいい奥さん。




     
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