I still……
 空と海が交わり、そして――




















 梅の大樹の下。蹲るようにして、そこにずっと人はいた。大分前に現れ、まだいる。ずっと膝を抱えている。
 仙人は束の間眺めて、やがて立ち去る。
 待ち人は、来ない。












「×××××」
 ある日、人は呟いた。
 それは名前のようなものだった。道具のような気もしたが、口調から察するに人の名前だろう。
 人が口を再び開くことはなかった。













 唐突に気付いた。
 壁を作っていたのは僕じゃないかって。
 ずっと会いたかった。愛していた。
 会えなくて、会いたくて、何度名前を呼んだことか。ここにはいない誰かへ、ここにいるように話しかけたことか。
 そうしてもまだ会えない。
 でも、それは僕のせいじゃないかって思った。確信も証拠もない。
 なんとなくそれが胸に痛いものだと気付いた。
 会って、愛してると言って、今度こそ守るよって安心させてあげたかった。何度も傷付いては頑張って歩いてきた君だから。
 逃げても苦しくなってしまう君は、いつだって強がることしか自分を隠して守る術を知らない。最後に傷付いた時願ったことも、強がりな君の精一杯の強がりだと知っているから。
 だから、愛してるって言いたかった。 
 他の誰も君を愛してなくていい。僕は愛しているよって。
 だから長い時間を待っていた。待っていられた。どんなに寂しくても、いつか終わりが来ると信じていたから。
 気付かなければ、思っていられた。信じていられた。
 気付いたのは、名前もない日。
 僕の誕生日も過ぎてから。
 君が帰ってこれないのは僕のせい?
 君は傷だ。恐怖と、絶望とを夢いっぱいになるはずだったピクニックのリュックにぎゅうぎゅうに詰められてしまった傷。
 耐えられなくて、選べる終わりも選べずに、最後の望みを託して消えてしまった。
 僕はそれをずっと後悔してきた。
 それこそが見えない壁を作っていたのだと思う。
 いつか交わると思っていた。
 空と海のように地平線で。だって僕達は同じ色だから。
 君は安心してもう一度歩き出して、僕は君の傷を食べてずっと愛していく。
 けれど、君は傷なんだ。
 ああ、なんてことだ。
 愛してるって言ったって、中身が伴っていないものなんかじゃ君はもっと傷付くだけだろうに。僕はなんてことをしていたんだろう。
 この気持ちが偽りであることに恐怖を覚える。
 そうして、君はまだ帰ってこない。










 わたしの傷はどのくらいですか
 どのくらい深いですか
 どのくらい血が流れていますか
 どのくらい酷かったら傷付いていることになりますか

 わたしは可哀想になれますか
 可哀想だと思うなら
 甘やかして背中を押してください
 そうしたら目を閉じて前へ進みます



     
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