名前も苗字も決まっている咲間鳴の場合
「pgrwwww 乙wwww」
 咲間鳴は、呟いた。
 入学式の途中。席は後ろの方である。
 檀上では見知らぬオッサンが何やら小難しいことを喋っているが知ったことではない。
 隣の男が顔を顰め、じろじろと鳴を見るが、気付かれないので少し離れるに留める。
 反対側では、女子が「隣のヤツマジキモイ。なんかひとりでブツブツいってんだけど」と、トーク画面で打つ。
 入学式。県内からも県外からも数多くの新入生が集う。
 高校よりも人間性は多種多様。居眠りを貪っている学生もいれば、隣の学生と既に意気投合し、談笑を交わしている者もいた。
 鳴は県外の出身だったが、都心に割と近い県から通っている。
 現在、某掲示板のスレッドを暇潰しに眺めている。
「妻が部下と上司と不倫してて、浮気を問い詰めたら混ざるか訊かれた」というスレッドは想像通りの内容で、今は裁判の真っ只中だというなかなかの修羅場である。
 人の不幸は蜜の味とはよくいったもので、他人のシアワセなんぞは早々に終わればいいと思う。
 普段は貞淑な妻で、良妻賢母の理想そのままだったのに、実は違ったというスレッドの主は時折ジョークも交えながら、それでも所々に悲しみを隠せずにいた。
 鳴はニヤニヤと笑いながら、スレッドを追う。
 書き込みはしない。
 こういった掲示板は一度書き込んだら止まらなくなる。誰も彼もが表面上はオヤサシイ世界と違い、平気で人を傷付けることもあるから相当な覚悟が必要なのだ。
 鳴は自分がチキンであると十分に理解しているため、日本語の通じない相手に真っ向から乗り込むような勇者にはならなかった。
 入学式が終わると、人の波をすいすい掻き分けて学校を出る。
 イヤホンをつけ、機械じみた女の子の声で歌われる音楽を流す。
 鳴を視界に入れた人が異様なものでも見るようにじろじろと不躾に視線を送るが、知ったことじゃない。
 アパートに着くと、パソコンを立ち上げ、掲示板を開く。別のタブでは動画サイトを開き、他にもゲーム、イラスト、ブログ、呟きなどを開く。
 コンビニで買ったクソまずい飯をかきこみつつ、日が落ち、また昇ってくるまでずっと画面とお友達になっていた。
 途中、腰が痛くなったのでベッドに移動した。
     
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