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一体何処にあるというのだ。
この世の何処に。一体。
男は、そこにいった。
顔色は土気色で、目の下には濃い隈が出来ていた。頬は痩せこけ、生きた骸骨そのままである。加えて、全く手入れのされていない、恐らくは何日も洗っていない頭髪は蚤やふけがそこかしこに散らばり、白と灰色に染まった髪にブツブツと纏わりついていた。
焦点の合っていない目が、追いかけるようにずっと天上に残されている。
ツンとした臭いが鼻をつく。
稍あって、男はあたりを見回し始めた。
殺風景な部屋には、しかしながら、男の探すものが見当たらないようだ。男は頭を抱える。
うう、うう、と呻きが響く。
男はぐしゃぐしゃと蚤とふけだらけの頭を掻き毟った。パラパラと白いブツブツが落ち、よく見ればそこらじゅうにあった。この上を歩くのは絶対に遠慮したい。
ついに爪に血がつく始末である。掻き毟られ過ぎた頭はところどころ傷痕があり、何度もそうやって傷を作ったことが窺い知れる。
とうとうそれだけでは満足出来なかったのか、今度は自分の手首を引っ掻いた。やはり腕にも幾本もの引っ掻き傷がある。
うう、うう、と男は掻き毟る。
痛みはある。血も出て来た。
それでも男はやめなかった。
「ああ、ううー、うー、あー」
その様子をじっと見つめる幾つもの眼光があることに、男は気付いているのか。
そして、それは眼の裏に蘇る記憶をより鮮明にさせた。
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