トアル警察官の手記
 @月○日
 最後に、私が代わりに筆をとろう。
某日。被疑者Aは出頭した。酷く衰弱しており、だがどこか落ち着いた感じを受けた。
Aの容疑は、Bへの傷害、監禁、殺害である。加えて、Cを殺害。
私は、驚きを隠せなかった。とてもではないが、このAという人間がこの凶悪殺人事件の犯人だとは思えなかったからである。
 犯罪者には大きく分けて二つの人間がある。
 一つは、見た目も性格もそのまま凶悪な犯罪者。こちらは力を見せつければ大人しくなるので厄介なのはもう一つの方である。
 もう一つは、見た目も性格もいたって温厚な人間である。こういう人間に限って、斜に構えているので扱いにくいわやることがえげつなかったりしてめんどくさい。
 Aはどちらとも違うように見受けられた。自らの罪を認め、罰を甘んじて受け入れようとするような。
 Aの担当となったのは私である。
 私は、訊ねた。何故、出頭したのか、と。
 すると、Aは、「Bを愛しているからだ」と答えた。
 驚くことに、AはBに暴行、監禁を咥えておきながら苦しんでいたらしい。これも稀なケースである。
 Bと言葉を交わすようにもなれた頃、ある日家に強盗に現れたCによってBは凌辱を働かれた。
 泣き崩れるBを前に、Aは怒り狂いCを殺した。
 BはAが近付くと怯えを見せるようになり、Aは悲しみに任せBを殺したと言う。それだけではない。Bと離れるのが嫌だという一心でAはBを食ったというのだ。
 自分が何をしたか。Aが悟ってからは後の祭り。
 Aは悲しみに暮れた。
 死まで考え、その果てに辿り着いたのであるという。
 Aは言う。
「どうか私を許さないでください。未来永劫光の射さないところで、Bのいない現実と向き合わせてください」
 今まで数々の命乞いを見てきたが、このようにいっそ清々しいまでのものは初めて見た。否。これはAにとっては最早死なのだろう。
 死んで終わりにするのではなく、Aは生きて苦しみ続けることを選んだ。
 どうしてそのような選択を出来る人間が、こんな犯罪をと思った。
 Aは、言った。
「私は強い人間だったんだと思います。けれど、弱くはなれない人間だったから。だから、こうなってしまったのでしょう」
 自嘲するように零した言葉は、今でも私の胸に残り、一字一句焼き付いている。
 後日、Aには死刑判決が下された。
 Aは法廷で最後まで生きることを訴え続けたが、二人の人間をも殺し、剰え食った殺人鬼を生かしておくわけにはいかないという判断だった。
 私はよかった、と思った。
 どうかもう一度。
 Bと違う出逢いと、そして、今度こそ悔いのない未来を。
     
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