「あれ、日本昔話じゃないですよ? 有名人が揃って歌っただけで」
「マジでか」
 兵壕は長年信じてきた自分の固定概念を覆されてきたようなショッキングに見舞われた。
 てっきり、日本昔話に出てくる感じだったと子供の頃のうろ覚えな記憶を頼ったのだが、所詮子供の拙い知識の記憶。頼る相手を間違えたようだ。
 ザキの一言に、今日の予定がまるっとおじゃんになってしまって、兵壕はガックリと項垂れた。
「く、組長?」
「いや……大丈夫だ」
 しかし、それならばどうしたものか。
 マチカは朝から興奮気味になっているし、今更ダメでした、では落ち込む姿が目に浮かぶ。何よりそれでは恰好がつかないというものだ。
 どうしよう。実は、本屋にでも寄って、絵本を買ってやるつもりだった。
 これでは予定がパアだ。
 どうしよう。
 実に十何年以上ぶりに兵壕は頭を抱えた。
 その間、一分は優にあった。
 兵壕は、突如ハッと立ち上がりザキにとある場所を貸し切らせた。
「うわ、本気ですか」
 実行を命じられた本人が本気で引いたのは、ここだけの秘密である。
 兵壕はそれがどうしたと言わんばかりの顔で、さっさとマチカを迎えに行ってしまった。
「ライカ」
「うっす」
「……お前、代われ」
「すんません。オレ、姐さん付きになったんで」
「俺だって組長側近だ」
「……」
「……」
「……じゃ、頑張ってください」
「アイツ、上司を見捨てやがった」
 こんな時に恩を売っておかないでどうするんだ。だから五年もマトモに出世出来ないんだ。
 ザキはぶつくさ零しながら、件の場所を貸し切るために電話をかけた。
 最初は必要以上に慇懃に応答していた相手が、途中から苛立ちや面倒をないまぜにしてくるのを耳に、コイツ手元が滑ったことにしてぶち殺してやろうかなと考えながら、らしくもない思考に溜息をついた。

     
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