一
あてがわれたのは、十五にも満たないガキだった。
「街花です」
「マチカ」と名乗ったガキは、俺の半分も背丈がなく、女みたいな柔らかさも男のような屈強な身体も持ち合わせていなかった。貧相で、ペラッペラで、今時Aカップの女でもそこまでねえくらいだった。
抱き締めたら骨をやってそのままポックリ逝きそうなガキを抱く気なんてさらさらわかなかった。
無論、このガキを送り寄越してきたやつもそのつもりだろう。要するにていのいい人質。いつ殺してもいいものを送り込んできたわけだ―――二人も。
「そのガキはなんだ」
ガキの腕に抱かれるガキもとい赤ん坊は、すやすやと眠りこけていた。こちらの気など知らずいい気なもので。
「弟です。カンタって言います」
どうりでよく似ているわけで。
人質に役に立ちそうにないものを送ってきた挙句子守までしろということか。
兎に角、数多いる情人の中でも一番使いたくないものを送り込まれてきたわけだが。事実、これは正真正銘「ガキ」なので文句を言うのも面倒だった。
「ザキ、コイツらを適当にもてなしておけ」
「かしこまりました」
控えていた側近は目礼し、ガキどもを用意していた離れへと案内した。
「やれやれ」
元々期待はしていなかった。どっかの名も知らぬ、血の繋がりもない醜女でも寄越されると半ば覚悟していた。それより更に悪かっただけだ。
女ならば、適当に抱いて、発散させる道具にも出来るし、子供も産ませることが出来る。邪魔なようなら殺せばいい。
ところがどっこい。相手は子供も産めないガキだったわけだ。
「さて、若い連中にどう言うか」
舐められているのだと憤慨し、乗り込もうとするかもしれない。仮にも停戦のための貢物の首を刎ね、我こそがクビをとらんと息巻く姿が目に浮かぶようだ。
それも、悪くない。
だが、それが出来ない現状にある今となっては、説得するより他になく。加えて、どう説得したものか。いや、誰にさせようか考えるだけで頭が痛くなって中断した。
「クマ、車を回せ」
「はい」
大柄なクマ男は、名前が熊田である。性格もそれに見合ったもので、初めて会ったときは堪えきれずに大爆笑して父親にぶっ叩かれたものだ。
懐古の情に絆されかけると、車が門の前に停められた。
護衛を引き連れ、情を振り払い、夜の街へ繰り出した。
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