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ネオンの光る街。チカチカと眩しくて、サングラスで光を閉ざす。どうにも慣れない光は、夜から着けても光は閉ざされず鬱陶しいが無いよりマシだ。
駅までは大分歩かねばならないが、給料だけはムダにいい。但し、苦手な酒を飲まなければならないのが難点だ。酒は親に似て苦手で、安い酒は特にダメだ。
高い酒以外は飲まないと断言してから、お高くとまっていて面白いと観客が多くなったが、お高くとまっているも何も立場からして違う。母親の方は兎も角父親の方はそれなりのものだ。それにお高くとまっているつもりはない。飲めないものを無理矢理流し込んで寿命を縮めたくないだけだ。変な病気にでも罹って仕事を辞めたくないとオーナーに直談判したら、一発でオーケイされた。つまりはそういうことだ。
金の切れ目が縁の切れ目というし、稼ぎも客も十分。
元より、自分の容姿は十分に自覚している。父親譲りの穏やかそうな顔と、母親譲りの気丈の強さ。相反するそれが自身の魅力を引き出していた。
駅前に着くと、朝早いこともあり、人でごった返していた。それも一時間もすればこれより酷いことになるのだけれど。
カラフルでオシャレと言われる歩道に靴音を響かせる。値段だけははる、仕立てのいい靴はいい音を響かせた。
スーツも、仕立てのいいものだ。これも値段はバカ高かった。
けれど、誰も近寄ろうとしない。
仕立てのいい背格好に不似合いな、染められて傷んだ金髪。誰がどう見ても水商売の男だ。
この時間はそういった人間の帰宅時間でもある。通行人は敢えて見ないようにして、さっさと通り過ぎる。駅を目指し、或いは駅から出て来る。
アフターに付き合う人間は昼時だろうが、付き合わないと決めていた。女も何もかも面倒だったし、そんなことをしなくても適当に金は稼げる。
駅に辿り着き、改札口に向かった。出社時間でもあるのか、今日はやけに人が多い。
人混みは好きじゃない。
ふう、と嘆息した。
人混みというだけで気持ち悪い。
その時、誰かとぶつかった。
「う、うわぁっ」
その誰かは、後ろで派手にすっころんだらしく、大きな音を立てていた。オマケに声も。
向こうもこちらも互いに見てなかった。お互い様だ。
「悪ぃ」
すっころんだ拍子に広げたものを、誰かは慌てて拾う。
手伝おうと、手を伸ばした。
「あ、すみません。大丈夫です」
誰かは、伸ばした手を制す。
それはそうだ。誰が水商売系の男にぶつかってぶちまけたところを見られたいのか。
余計なことをした。
しかし、立ち上がると、その人は顔を上げた。
「すいません、読み歩きしてて。ありがとうございます」
笑顔を向けて、礼を言った。
まさか、自分が悪いから制したのか。そんなバカな。いや、顔を見たらきっと本音が漏れるに違いない。
「いつも注意されるんですけど、やめられなくって・・・やっぱりやめなくちゃなぁ」
だが、その人はぺらぺらとよく回る口を動かす。
目を瞠り、驚いていることに気付きもしないで。
その人は、全て拾い終えると、よし、と立ち上がった。
「あ、すみません。なんか待たせちゃったみたいで」
「い、や・・・」
「では、ありがとうございました。失礼します」
その人は、一礼してさっさと駅から出て行ってしまった。
あんな人間がこっち側に何の用があるのか。
そう思っていると、
「ああ!」
唐突に声を上げた。
そして、
「降りる駅間違えた!」
見事なぬけっぷりを披露した。
     
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