10
そこを食まれる刺激は少ないのに強烈だった。
先端だけをちろちろと舐め、唇でこりこりとするだけで強い刺激はない。だが、微々たる愛撫しか与えられず、暫く受け身になっていると立神は辛くなっていった。
イけないのだ。愛撫が弱すぎて、先走りも出せず、じわっと濡らすことしか出来ない。ちょっとの接触は立神をそろりそろりと追い詰めてくる。
ついには、立神は頭を抱えて悶えた。
「も・・・っ、だ、めぇ・・・!」
司書さんは先端を食みながら、顔を紅潮させて悶える立神を一瞥した。指の隙間から覗く瞠られた目は、布地の上からの愛撫を見ている。
息は荒く、慄きながらも期待しているのが分かる。
でもそれを口には出せないのだろう。これ以上の快感が欲しいはずなのに。
「かわいい」
ああ、本当に可愛い。
司書さんは、そこへの愛撫をやめて立神を見下ろした。
呼吸とともに上下する厚い胸板、喉仏。二つの突起はぴんと尖りを帯び、うっすらとピンク色に染まっててむしゃぶりついたら甘くて果汁が滴り落ちそうだ。美味しそうなそれを食べたくて、舌舐めずりをすると大袈裟なくらいに反応された。
あんなに強い目が、眉尻は下がり、双眸は潤んでいる。零れ落ちそうな涙は飲んだらどんな味がするのだろう。
たまらず、瞳に唇を寄せて、浮かんだ粒を啜った。
「ひぃっ」
塩辛い。
甘い甘いーーーそう、例えるなら葡萄のような味がすると思ったのに。
だが、悪くない。
「ねぇ、気持ちいい?」
「え・・・」
「気持ちいい?」
言葉を繰り返すと、立神はぽかんと口を開けた。そして、気恥ずかしそうに顔が逸らされる。
困ったように瞳はきょろきょろと忙しなく動いており、何度も口を開きかけては閉ざされる。
様子をじっくり観察していると、やがてそろそろと首が縦に振られた。
精一杯の答えに、司書さんはほんのり笑みを乗せた。
「じゃあ、終わりにする?」
口をついてでたのは、正反対のものだったけど。
「え?」
予想通り、立神ははっと見上げる。ショックを隠せておらず、司書さんは笑みを深いものにした。
「だって、気持ちいいんでしょう?」
気持ちいいなら、もういいよね?と。
残酷な宣言だった。
「い、いやっ・・・」
「いや?気持ちよくなかった?」
「ち、ちが・・・っ」
どういう意味か分かっているのに、敢えて的外れな答えを示す。
でも、と司書さんは思う。言ってくれた。嫌だと。言葉にすることも出来ず生娘のように恥ずかしがっているだけだったのに、ちゃんと嫌だと言えた。
嬉しくて、自分が今にやけついていることに気付いておりながらもどうしようも出来ない。
立神は眉を八の字にして、何か言葉を紡ごうとした。が、結局言えなくて、パクパクと魚のようになっていた。
司書さんは、そろそろかなと助け舟を出してやる。
「それとも、もっとする?したい?」
「・・・っ、」
ぱっと、立神は司書さんを見た。
悲しげにも見えた表情が、一変して期待と嬉々を乗せたものになる。
途端、司書さんは自分でも顔が真っ赤になるのがわかった。
立神は、きょとんとしているがそれもたまらない。
うわぁ。うわぁうわぁうわぁうわぁ。かわいい!
全身で好き、と言われたようなものだ。愛撫が嬉しいなんて顔。
そんなこと自覚しているはずもない立神は、相変わらず不思議そうに見上げているが、司書さんはもうそれどころではなかった。
正直、立神をめちゃくちゃに暴いてやりたい気持ちはあった。喉仏にむしゃぶりつき、じゅるじゅると吸って皮膚を味わって。乳首は弾いたり引っ張りこねてつねって真っ赤にして形を変えたい。唇も貪って、薄くて透明感のあるものを赤くぽってりとしたものに変えてやりたい。
けれど、根っこの部分では愛したかった。優しく触れたかった。
だから、恥ずかしいことも少しだけでも言わせた。
言わせることも愛することだと思うからだ。
だが、立神の反応に熱を持ったそこが一気にぐんっと張り詰めたのが分かった。硬く、持ち上がる。恐らくスラックスの上からでも分かるくらいーーーいや、もうノックしてるんじゃないかと言われてもおかしくはない。
ヤバい。ひやひやする。愛するつもりが、まさか愛されるなんて思いもしなかった。あんな全身で好きだなんて言われるのは、愛撫も同然だ。
しかし、司書さんは我慢した。答えを聞くまでは動くわけにはいかなかった。
「ねえ、欲しい?」
そして、小さく小さく様子を窺うようにして首が縦に振られた。
それを皮切りに、司書さんは手荒に立神のベルトを外し、スラックスと下着を一気に膝まで下げた。ぶるり、と露わになった性器はまだ熱しか持ってなくて、今か今かとちゃんとした快感を求めている。
足を持ち上げ、余計なものは取っ払って、熱を口に含んだ。
「ひあぁああっ」
悲鳴とともに、立神が上半身を反らした。
いきなりの口淫に、熱塊はどくんと脈打ち膨らむ。
司書さんは立神の表情を見逃さないようにじっと捉え、竿を舐めた。
口の中で行われる愛撫は熱さとそわりとした感覚を引き起こし、立神が身悶える。シーツにしがみつき、くねくねと体は動き回り、どうにかして快感をのがそうとする様は見ている方の快感も誘う。
裏筋も忘れず舐めてやり、先端はねじ込むようにぐりぐりと攻め立ててやると、びくんっと大きく仰け反った。
「っああああぁああ!」
信じられない。とでも言いたげに、双眸が見開かれている。
ここでの愛撫を知らない反応だ。
次いで、袋の部分を揉んでこねてやる。すると、尻が大きく跳ね上がり、喉奥にまで含んだものが突っ込まれた。
「っ、んぐっ・・・」
思わず呻くと、途端、飛沫が叩きつけられる。
意図せずして飲み込むことになり、だが詰まってげほげほと咳き込んだ。
「・・・ぁ、・・・は、」
立神は、小刻みに震えている。ずっと微妙な接触しかせず、いきなり快感を与えられたからだろう。
「イマラチオか・・・」
はっと、立神が司書さんを見る。
「えっち」
淡く微笑むと、立神の顔が林檎のように真っ赤に染まった。
司書さんは見せつけるように、唇から零れた白濁も舐めとる。立神は、目を逸らせずわなわなと震えている。
本当は、今もなお尖りを硬くしている乳頭や、むしゃぶっただけで素直な反応を見せる熱を愛してやりたかった。
だが、もう限界だ。
司書さんは、シャツとスラックス、それから下着を順に脱ぎ捨てて一糸まとわない姿になる。
シャツと靴下だけの立神は、それをずっと見ていた。その間に、熱はまた硬さを取り戻している。
立神の足を持ち上げ、肩に乗せる。後ろの秘孔が目の前に現れた。ほんのりと薄く桃色に色付いているかと思ったが、違った。
擦り切れたような痕と、赤み。
誰かに使われた証。それも、無理矢理に。
「ちぃっ」
司書さんは、舌打つ。
薄々勘付いてはいた。立神をネガティブにした原因がいることを。
だが、この痕は想像より悪い。立神は、愛されたことがないのだ。
「ご、ごめんなさ・・・。お、おれ、あの・・・っ」
「黙って」
「・・・っ」
ぴしゃりと黙らせると、泣きそうになったが知ったことじゃない。
言い訳はいらない。
「ねぇ、名前教えてくれる?」
「・・・蘇我、立神です・・・」
「そう。僕は、優衣人。花宮優衣人」
「花宮、せんせ?」
「優衣人」
「優衣人、さん・・・?」
「・・・っ、」
「え、あ、ぁあンッ」
優衣人は、我慢出来ず、秘孔に自身を擦り付けた。
突然のそこへの熱に、立神は堪えきれず喘ぎを漏らす。
てっきり「先生」と呼ばれると思ったのに、まさかさん付けなんて反則だろう!
優衣人は、真っ赤になているであろう顔を見られないように、腰を持ち上げて狭間で律動した。じゅ、じゅ、と滑る度に熱は硬くなっていき、気持ちよくてイきそうになる。
立神も同じだった。押し付けられた熱は、想像以上の快楽を生み、体を捻じって身悶える他逃れる術はなかった。だが、それでも熱さは体の中に留まっており、どうにも出来ず只管自分でも聞いたことがないような嬌声を漏らしていた。
「あ、あッ、ああっ。ああっ、ああンッ」
知らない。知らない知らない知らない。
なんだ、これは。
理解を超えた快感に思考能力すらも掻っ攫われる。
「ゆ、いとさん・・・ゆいとさんっ。ゆいとさんっ」
「りゅ・・・じんっ」
「あ、ゆいとさんっ。ゆいとさんっ」
最早、名前を呼ぶだけで快感になる。
それでも、立神は名前を呼んでいたかった。
「あ、あッ、あッ、・・・んァあああッ」
立神の熱が、温かいものに包まれる。
手だ。優衣人の。
手は、しゅっしゅっと竿を扱く。前からも後ろからも快感が立神を襲った。
立神はガクガクと腰を振り、自ら快感に追い付いた。
「ゆいと、さんっ。ゆいとさ、ん・・・っ」
「立神・・・っ」
苦しそうな声音が、立神を呼ぶ。
ああ、愛されてるんだ。と、立神は思った。
「ゆいとさんっ、ゆいとさん、ゆい・・・っ、ぁあああッ!」
ぶちゅり、と秘孔に先端が侵入した。途端、立神は脳をハンマーで叩いたような絶頂に襲われた。
ぴゅぷ、ぴゅぷ、と。先端からは飛沫があがる。
先ほどよりも長い絶頂に、立神は口を閉じることもままならないまま涎を垂らして喘いだ。
気持ちいい。後ろを使うなんて恐怖でしかなかったのに、こんなに気持ちよくなれるのか。
ぽっと、顔が赤まる。
こんな快楽知らなかった。何故か、嬉しい。
しかし、絶頂に浸る間は与えられなかった。
みしり、と後ろへ侵入してくる異物感に立神は現実に引き戻された。
「ああああっ、っ、・・・あ・・・」
熱が、入っている。先だけだが、立神の中へみしみしと、入ってくる。
熱は、先だけ侵入するとじっと動かない。
立神ははくはくと息を紡いだ。
苦しい。喉から侵入されているみたいだ。
熱はじっと動かず、司書さんも動く様子はない。
「ゆい、とさ・・・?」
まさか、ここまで来て嫌になったのか。と、不安に駆られる。
しかし、見上げた先にある司書さんの顔には汗が滲んでいた。表情は強張り、温かい笑顔を引っ込めてふうふうと息を整えていた。
瞳は強く、じっと立神を見ている。
稍あって、立神も大分楽になってくると、司書さんもそれに気付いたのか腰を動かす。解すような動きに、立神を待っていたのだと悟る。
まさしく愛する行為に、立神はぽうっとしてしまう。
今、はじめて、立神は愛されていると自覚した。
これが、愛されるということなのか、と。
熱は立神の慣れに合わせてゆっくり侵入した。
そして、中ほどまで来ると、立神は苦しくなって仰け反り身悶えた。一番太い部分が入り口を通ろうとしている。だが、顔に似合わず太すぎるそこは入りにくい。
けれど、中から出て行く様子はない。
「立神、力、抜いて」
「む、りぃいいいい」
腹を抑える。苦しい。ここが、苦しい。
でも、入れて欲しい。入って来て欲しい。
欲しい。これが。
司書さんは一息ついて、立神を抱き締めた。背中に腕を回させる。
「きっつい・・・」
唇に触れるだけのキスをおとし、頬をぺろと舐めた。
安心させるようなそれに、立神も力を抜く努力をするがなかなか叶わない。
「立神」
しかし、
「好きだよ。愛してる」
言い終わるか終わらないかのうちに、ずんっと腰が奥まで進められた。
「んンンぅううッ!」
「・・・くっ、」
抉るように侵入する熱。
立神は、ぎゅうっと司書さんに抱き付いた。
熱い。痛い。
それ以上に、苦しい。
痛いだけしか知らなかった。自分で解してあっても、痛いだけでイったことは一度もない。
けれど、今、こんなに痛くて熱くて苦しいのに持って行かれそうだった。
気持ちよくなんてないのに。
「は、・・・がんばったね」
喘鳴の合間に、頭を撫でられる。
優衣人も苦しそうにしていた。後ろはキツくて、締め付けすぎているだろう。
それなのに、労わるような手つきに立神は嬉しくなってうんうん頷いた。甘えるように、キスをし、ねだった。
優衣人は優しく答えてくれて、嬉しいのにボロボロ泣いた。
好きだ。
好きだ。
好きだ。
この人が、どうしようもなく好きだ。
「もうちょっとだから。ね?」
「うん。だいじょ、ぶ」
大分中も慣れてきた。
立神は腰を押し付けると、優衣人が苦しそうにする。
「いいこ」
ふわっと、温かい笑みが向けられる。
同時に、優衣人の熱がずろろと抜けて行く。ゆっくりゆっくり、来た道を辿るような動きに立神は腹を抑えて悶えた。
先端まで抜くと、今度は同じようにして入ってくる。
ゆっくり。じわじわと。
動きは徐々に早まり、しかし時には強弱もつけて。
「んンぅ、うっ、あッ」
「・・・く、」
立神の中は律動に合わせて解れていき、立神も腰を動かした。前後に、時にはぐりぐりと。
ゆっくりだった動きは、早いものへと変わるのにそう時間はかからなかった。
ぱんっ、ぱんっ、と叩きつけられる腰。
「アッ、あ、あぁッ、あぁッ」
立神は優衣人の首にしがみつき、訪れる快楽にたえた。そうでもしないと、すぐに気を失ってしまいそうだった。
優衣人も絶頂が近いのが分かる。今まで一度もイってないはずだ。
そうすると、今までの分が中に一気に来るのか。
立神は想像して、切なさに胸を締め付けた。
同時に、後腔がきゅうんっと締まった。
予想だにしなかった締め付けに、立神は仰け反る。
「っあ、」
「うっ」
優衣人も、快楽を堪えた。
「いけない子」
すっかり拗ねてしまっており、わざとと思われていることに気づく。
弁明しようとしたが、前を擦られ、ストロークは強く叩きつけるようなものになって叶わなくなった。
「あッ、あッ、ああッ!あぁああッ!あ、あ、あッ、」
「だす、よ・・・」
「ん、んっ!」
こくこく、と立神が頷くと同時に、一際強く叩きつけられた。
そして、
「くっ・・・」
「あ、ああぁあああああッ!」
奥に飛沫を叩きつけられ、立神は嬌声をあげながら、自身も絶頂を極めた。
「立神・・・っ」
後腔を締め付ける感覚に、優衣人は立神を力強く抱き締めて同じものを味わった。
「愛してる・・・」
真っ白な頭で最後に聞いた声に、俺も、と返して立神は瞼を閉じた。
     
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