9
司書さんは、立神を起こすと、きつく抱きしめた。
息が苦しくなるほどの抱擁に、立神はうっとりと身を預けた。
言葉はなかった。けれど、何故かこの空気が好きだった。
しかし、その時間もそう長くは続かなかった。
そっと、シャツの中に忍び込んでくるものがあった。
「っ、……」
背骨をつとなぞり、往復していく。
「ちょ……っ」
まるでこの先を示唆しているような動きに、立神は胸板を押した。だが、ぴくりともしない。
肩幅や身長は立神の方が勝る。
立神は、自分が本気を出せていないことに気付いていなかった。
司書さんは勿論気付いており、背から胸へと移動する。
「ま、待って」
胸板を押すも、抱きしめる腕の力強さに白旗を振るしかない。
司書さんは立神の耳を甘噛みした。
「待たない」
「ひっ」
艶を十分に含んだ声は、ただでさえ刺激されてあらぬところが反応しかけていた体に直撃した。
立神はぶるりと震える。
司書さんはその反応を楽しむように、耳の中に舌を侵入させた。外側を唇で食む。
甘たるい快感に、立神は司書さんの胸のあたりを掴んだ。最早抗うことすら出来ない。せめて反応しないようにするだけで精一杯だった。
「あ、あの」
「ん?」
司書さんは耳の中を舌で撫でながら、息を吹き込むように促した。
それにもまた感じてしまって、けれど流されないように立神は胸板を押す。
距離はまったく離れない。
「お、おれっ、が、ガバマンだから……ゆるっゆるで、だから、ァアッ」
耳を強く噛まれる。
痛みに立神は悶えた。
「あ、あの、あッ、だめ。だから、ッあ、」
剰え、立神が続けようとするたびに噛むものだから、段々痛みがあらぬ感覚を催してきた。
立神が何も喘ぎ、言葉を紡げなくなると、噛んだところをそろりと舐めるのだ。
まるで、立神に言わせまいとする反則まがいの行動に、何を言おうとしていたのかも忘れてしまった。
司書さんは立神の反応を楽しみ、満足げに笑った。
「他の男の話をするなんて、いけない子だね」
「あ、で、でも……」
「僕にこれ以上嫉妬させて、壊れても知らないよ?」
「こ、わ……?」
意味をはかりかねて、首を傾げる。
司書さんは、うっとりと笑う。
「壊してしまおうか。ねえ?」
立神には、その狂喜がちっとも見えなかった。
もし気付いていたのならば、すぐさま距離をとっていただろう。
しかし時すでに遅く、立神はソファーに戻された。
司書さんは立神の首筋を舐めた。唇で撫で、食む。
その間に手はシャツのボタンを外し、手は快感でぷっくりと尖る突起に伸びた。
「っん」
そっと触れられただけで、立神は震えた。
突起を優しく、触れるか触れないかくらいで撫でる手がもどかしい。
中途半端の快感すらならないものは、逆に立神に期待をさせる。期待は、この後を想像して快感に似たものを齎した。
「ッン、あッ……」
首筋に吐息がかかる。
司書さんは、顔を上げ、立神を見つめた。快感に染まり切れないで、切なく震える様はなんとも言えない。
たまらず、嬌声を紡ぐ唇にむしゃぶりついた。
甘い。
触れるだけのものと違って、口腔の中まで味わいつくすそれは立神を翻弄した。唾液が立神の中に入り、知らず飲み込む。
司書さんの一部を飲み込んだことに、笑みを乗せた。
「かわいい」
司書さんが与える愛撫のひとつひとつに喜ぶ立神が可愛くて仕方がない。
舌を絡ませれば、それにおずおずと応えで舌を差し出す。歯さえも絡ませるごとく、立神の口腔内を貪った。
立神が舌で応え始めた時を見計らって、胸への愛撫を再開する。
「ッ、あ」
立神は顔を赤くして、触れるか触れないかのもどかしい動きにじれったそうに胸元を見やる。しかし、愛撫を直視することは恥ずかしかったのかすぐに視線は逸らされた。
自分でやったくせに、とおかしくなって、司書さんは噴き出した。
立神は泣きそうな顔で司書さんを見つめる。
その視線の求めるところに気付いていながら、司書さんは気付かないふりをした。
すると、今度は睨みつけてくる。
ころころと変わって面白い。
それでも、やめてやる気はなかった。
「どろっどろに甘やかしてあげる」
立神は、はっと目を瞠る。
自分を見つめる司書さんの視線の意味に気付いて。
「嫌って言っても、もうダメって言っても。放してあげない」
だから、早く堕ちておいで。
「せ、……ッあぁああっ」
立神の下肢で膨らむものを掴んだ。突然のそれに、立神は仰け反った。
思ったよりも感じているようで、司書さんは満足していた。
胸への愛撫を続けながら、司書さんはそこに口を寄せた。
「あ、あ……だめ、……だ、め」
ゆっくりと、立神に見えるように。
立神は自分のものに司書さんが顔を寄せるのを見ていることしか出来ず、顔を覆いながらもその隙間から見える光景にガタガタと震えた。
制止をかけても止まらず、司書さんの唇が布地の上からそこに触れる。
「ッあ!」
まずは、キスを。次いで、先だけを食んだ。
立神は少ししか触れられない唇に、腰を浮かせて反応した。
だが、司書さんは腰を押し付けて動けないようにした。
刹那、立神の顔が絶望に染まる。
「え……」
司書さんは、そこにキスをした。
何度も、何度も。
たまに、食んだりして愛撫を与えるが、それも先だけ。微々たる快感だった。
立神が少しの愛撫が物足りなく、司書さんに抗って腰を浮かし始めると、舌でちろ、と舐める。
「んぁっ」
ちろ、ちろ、と。
新たな快感に立神は顔を覆って悶えた。腰が抑えられていて追うことも出来ず、ただ与えられる快感を受け止めることを余儀なくされた。
司書さんは、唇と舌の愛撫と食みを交互に与えた。
立神は唇から涎を零し、魚のように震えていた。
もうすぐだ。
司書さんは、心の中で呟いた。
その婀娜っぽい姿に己自身も張りつめていた。
こんなに可愛いのに、どうしてあんなにネガティブになれるのか。司書さんは本気で思った。
むしろ、淫らに誰にでも体を割り開いてもおかしくはない。
だが、快感を知らないこの体に教え込めるのは自分なのだから、それで良かったのかもしれない。
但し、これからはそのマイナス思考を取り除くが。
     
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