ギザギザの凸凹した爪は、変わることがない。平らかになった途端元の形に戻される。最早、それを原形と言ってしまうほど。
犬歯のような尖った刃で、なんの味もしないだろうかたいそれを齧った。以前はひっきりなしにしていたそれを、深爪で痛いと言えばやめてくれる程度の思いやりはあるようだ。
あまり綺麗に、とは褒められたものではない形に切り取った爪は嚥下されて腹の中。胃袋でとけて、とけて。一部になっていく。
とけきらなかったものは? 身体の不調を来して、徐々に浸食していくのだろうか。それも悪くない。と思うほどにはまだ狂いきれていない。それを許しているのだから大概だ。
会話は、なかった。
一心に齧り付く様を俯瞰する。手の爪だけでなく、足まで、むけた皮も丁寧に剥がして、齧り取り、飲み込む。いっそ洗練された綺麗な一連の所作ともいえるそれは、禁欲的でもあって、理に触れている気もする。
一瞥する。双眸が、向いた。重なり合い、じっと見上げる。
間を置かずして、逸らされる。
瞬きひとつの合間の出来事が、一瞬よりもずっと長く感じた。ともすれば、心臓が何回もけたたましく鳴るくらい。
手が終わり、促されるがままに足を差し出す。宛ら泰然と、玉座に座っているかのようにすらりとのばされたそれを躊躇せず手ですくう。恭しくも獣の如き口が開き、爪を食んだ。
瞬間、下肢を襲う甘くもいばらのとげのような快感に、声が漏れた。
瞳が、上向く。涼しいものだ。
未だ腰のあたりから頽れそうな感じに身を委ねることも出来ない。
反対の足をのばした。するり。首筋を撫で、背中へ回す。
瞳が、もう一度向いた。
したり。
顰められた眉間が物語っていた。
自分だけなんてフェアじゃない。
ああ、ゆかいゆかい。荒っぽく、早くなった所作に笑いを隠せなかった。

カノルさんより、「欠けた爪」
     
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