神に愛された貌。足を組み、うっそりと笑う姿はそのもの。おいそれと近付けず、触れることすら恐れ多い。
指先ひとつで戦いを指揮するという。その手腕たるや、まさしく神の恩寵だと誰しもが謳う。
誰が逆らえようか。
誰が抗えようか。
誰が、想像だにしようか。
十にも満たない少女だと。
その船は、「セント・ノアーク号」と言う。聖光なる、神の舟である。
しかし、その船の乗組員はすべて世界に抗う猛者どもーー海賊だった。その名にまったく相応しくない、悪辣極まる海賊行為で有名だった。
気分を損ねたと街一つ焼き、或いは気に入ったと街一つ奪った。
大鳥の船首を見たらとるものもとりあえず逃げろ、とはよくいったもので。彼らが通る道には何も残らないと言う。
この船の名を高めたのはもうひとつ。
船長が女で、剰え十にも満たない齢であることだ。
愛らしい貌で頬づえをつき、うっそりと嗤う姿はまさしく神そのもの。
指先ひとつで敵を殺し尽くし、街を亡す。正に神の恩恵である。
「逃げろーっ!」
とある港に、その船は行き着いた。
住民は血相を変えて街から逃げ出し、老いた親や、歩けない子供を捨てて一目散に街から出て行った。たちまちに静まり返った街へ、乗組員は意気揚々と降りた。
「船長、また逃げられやしたね」
「ふんっ。面白くないな」
少女は顎を使い、乗組員たちへ指示した。
全員が一様に頷き、逃げた住民どもを捕らえた。日頃戦い慣れていない者など、海の戦士に比べたら小指で足りた。
「この鬼めっ」
「神の罰を受けるがいい!」
「地獄へ落ちろ!」
捕らえられた住民どもは、口々に悪口雑言を連ねた。眉間に皺寄せ、唾を吐き捨て、武器をとらんとした。
「やれ」
その一言で、住民は血だるまへと変わった。瞬きひとつの間のことであった。
くつくつと、嗤い声が響く。
「罰せられるものなら罰しているさ。地獄など閉じ込められるものならそうしていよう!」
誰も、知らない。ーー知ることが、出来ない。
「ああ。……ああ!どんな地獄だろうと抜け出してみせよう。どんな罰であろうと受けてみせよう」
愛らしい少女の貌が、歪に嗤う。
「出来るものならな」
誰も知るすべはない。
真実少女が神の子であり、また自信もそこへ名を連ねると。
「興が削がれた」
たった一言で、街からは米粒ひとつすら残らなかった。
「さて、行くか」
船は行く。神の名を騙る船は、青い海を悠々と泳ぐ。
昔、悪辣な神が子を成した。愛らしい面差しと、神々しいまでの気を持ち、まさしくその血を受け継いだ子だった。
しかし、子が受け継いだのは血だけではなくその気性だった。
親を親とも思わず、悪逆の限りを尽くした子は、地獄へ閉じ込めようと抜け出して街を亡ぼし、神罰を与えようともきかずに高笑いしてみせた。
とうとう神の手には負えなくなり、地上に落とされた。
神の子は、人を集め船に乗り、悠々自適な海の世界を味わった。時には残虐の限りを尽くし、時には悪逆の限りを尽くし。通る道には草の根すらも残さなかった。
しかし、神には手出しできなかった。
神の子は、親をも凌ぐ力を持っていたためだ。
誰も罰することができず、誰も殺すことができない神の子。
聖光なる神の舟に乗った少女は、今日か明日かと怯える人々を刈り尽くし、うっそりと嗤う。


れいさんより、「幼女」
     
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